自分が選んでそれをやっている自覚
私は18年半、百貨店に勤務し、そのほとんどを売り場での販売や指導で過ごしてきました。
「ありがとうございました」は8大基本用語と呼ばれるものの一つで、私は一日に何十回も「ありがとうございました」を口にはしていました。
しかし、お客様には感謝しても、内心は会社に対する不平不満で一杯で、少しも「感謝のある人」ではありませんでした。
勿論、会社に不満を持ってはいけないわけではありません。真面目に取り組めばこそ不満が出ることもあるでしょう。
ただ、当時の私は、「自分が選んで会社勤めをしている」自覚がまるでありませんでした。
「選んでやってる」自覚があれば、「不満はたしかにあるけれど、それも自分が選んだ道だ」と受け入れられたでしょう。
人は必ず、無意識ではあっても、何かと何かを天秤にかけて、自分がそれを選んでいます。
その気づきを得たのは、会社を辞めて、何年もたってからでした。
都合の良いことには感謝して、都合の悪いことには感謝しない、これは感謝という行為であって、境地ではありません。今風に言えば「超ラッキー!」と言っているだけで、心底「ありがたいなあ」と思っているわけではありません。私はこの感謝という行為をしていたのに過ぎませんでした。
この「自分が選んでやっている」自覚なしには、「感謝のある人」の境地に至ることは決してできないのです。
しばしば食い違う「やりたいこと」と「必要なこと」
また同じく、百貨店勤務時代の話です。
チームリーダーがパソコンのモニターの売り上げ速報の数字を、しょっちゅうしょっちゅう眺めてはため息をついているのを見て、
「そんな暇があったら、店頭で声出しでもすればいいのに」
と、私たちヒラの販売員は陰口をたたいていました。
しかし、自分がチームリーダーなった途端に、同じことをやってしまうのです。
やりたいことと必要なことは、しばしば食い違います。ただ、これを自覚しているうちはまだいいのです。
やりたいことをやっているだけなのに、必要なことをやっているつもりになる、脳は誰よりも自分を騙してしまいます。
必要なことをやっているつもりに、自分を騙していないか
人間は基本的に、やりたいことしかやりたくありません。
「できたはずなのに、やらなかった」を後悔と言います。
が、結局その時は「できたはず」のことは、「やりたくない」ことで、別の「やりたいこと」を自分が選択したのです。心から望んで、ではなかったにせよ。
その時は無駄、寄り道と思ったことの中に、人生を新たに切り開くきっかけが潜んでいることもあります。その時は必要と思ったけれど、後から考えるとそれ程でもなかったな、ということもあります。
だからいつもいつもきっちりと、「必要なことだけをやる」のは無理があります。人間はそう杓子定規で生きていけません。
大切なことは、
「やりたいことをやっているだけなのに、必要なことをやっているつもりに自分を騙していないか」
「『今やっていることは、やりたいことなのか、必要なことなのか』がわかっているか(この二つが合致していれば一番いいのですが)」
ということです。
自己欺瞞と感謝の境地とは矛盾する
自分で自分を騙し、ごまかす。この自己欺瞞があっては、感謝という境地とは矛盾します。
またこの自己欺瞞には、厄介なことに自覚がありません。そして更に厄介なことには、自分で自分を欺いた人は、自覚なく他人を欺きます。そして欺かれた方の心の傷は中々癒えません。
愛の仮面を被った支配欲に苦しむ人は大変多いです。弊社のクライアント様のご相談は、ほとんどがこのことです。しかし、愛の仮面を被って支配している方は、全くその自覚がありません。自分で自分を欺いています。
感謝という境地に至るには、自分を他人の目で眺められる客観視の力、メタ認知能力を高め、自分をごまかすことを減らすことも必要とされます。
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