ナルシシスト親の「脳内ごっこ遊び」・尊厳を削られる子供

ただの意地悪とは異なるナルシシスト親の存在否定

ナルシシスト親からの被害は、「説明しにくい」「愚痴を聞いてもらってもすっきりしない」「尊厳を削られた感が、長く深く残る」と言った、被害を受けた本人にしか実感しづらいものです。「意地悪な人に意地悪なことをされた」明快なものではありません。

普通の人の意地悪は、人間らしい弱さの範囲内であり、その人がストレス下になければ弱まる、状況依存的な場合もあります(新婚中で幸せいっぱいの時は、意地悪が減るなど)。

しかしナルシシスト親の場合は、「イライラして八つ当たりする」などの状況依存的なストレスが原因ではありません。「相手(子供)の存在自体が問題にされる」という、子供にとっては理不尽極まりない、「だったら生んでくれるな」とも言いたくなる類のものです。

ナルシシストは相手の尊厳をシステマティックに、良心の呵責なく削ってきます。

以下は「普通の人の意地悪 VS ナルシシスト親の踏みにじり」の比較表です。

項目普通の人の意地悪 ナルシシスト親の踏みにじり
性質 状況依存的・感情的構造的・恒常的・戦略的
比喩 「イライラしている時に当たる」 
「新婚当初は優しいが、ストレスが溜まると出る」
「いきなりドスで刺される」
「いつの間にか毒を盛られる」
予測可能性 比較的可能(イライラしているなど)予測困難(地雷を避けても意味がない)
意図その場の感情発散・マウント取り 自己イメージの維持
被害の深さ 表層的・一時的(愚痴で発散できる)根源的・蓄積的(尊厳を削られる)
防衛の難易度用心すればある程度回避可能常に盾を複数構えていても、いつの間にかやられている

被害者側の感覚の特殊性

普通の意地悪なら「あんな嫌なことをされた」と具体的な愚痴にできます。「それは嫌だよね」などと他人の理解や共感を得やすく、「聞いてもらってスッキリする」になりやすいです。

しかし、ナルシシストの場合は「私の存在価値を根本から否定された」という根源的な傷になるため、言語化しにくい上、特に親からそれをされたことに氣づくと、猛烈な怒りになって当然です。ただ、その怒りは、適切に吐き出し、統合されると、尊厳の回復のプロセスになっていきます。

ナルシシストの行動原理は「自己イメージの維持」

ナルシシストの発想と行動の原理は、実は単純で一貫しているのですが、ごく普通の良心と共感性のある人にとっては、不可解極まりないものになりがちです。人は誰しも無意識的に、自分自身が既に持つ枠組みで、物事を理解しようとするからです。

ナルシシスト親も、その子供も、核心的羞恥(core shame)「自分は欠陥品であり、欠けた丸だ」という不全感を根底に抱えています。

しかし、ナルシシスト親に育てられても連鎖しなかった人は、この核心的羞恥を自分の努力、経験、失敗からの学び等を積み重ね、欠けた丸を埋めようとします。自分で責任とコストを負う姿勢があります。

ナルシシストは、「欠けを努力によって埋める」のではなく、「欠けを『自己イメージ』によって塗りつぶそうとする」、こうした違いがあるとイメージすると、わかりやすいかもしれません。そして後述しますが、そのコストと責任を自分が負おうとはしません。

この自己イメージは

  • 「完全で問題のない自分」⇒問題は即「ないこと」にされる
  • 「繊細で傷つきやすい、庇護されるべき自分」⇒被害者ポジションにしがみつく
  • 「犠牲的聖人の自分」⇒「私のおかげで丸く収まった」の偽善
  • 「責任からは免除される自分」⇒責任は他人に全振り

など様々ですが、普通の社会経験を積んだ人の目からすれば、いずれも「無責任で幼稚なご都合主義」になるでしょう。

しかし、「常識的で、そこそこ感じが良い(このそこそこ感じが良いが曲者で、気圧されるようなファッショナブルな人は、私の観察ではそういないようです)」かつラポール形成に長けているので、この無責任ぶりが覆い隠されてしまいます。

カラバッジオ「ナルキッソス」

このカラバッジオの描くナルキッソスのように「内的には自己完結している(他者が存在しない)」が、「現実の行動は他人を巻き込み続ける」この原理のために、周囲は疲弊し続けてしまいます。

「高サプライ+低責任+低コスト」の方程式

この自己イメージの維持のための方程式が、見出しの「高サプライ+低責任+低コスト」です。

健全な人には「価値のあるものを得るためには、それなりの代償が必要」という自明の理が、ナルシシストには通用しません。自身のサプライ(供給:賞賛や承認、感情的に満たされること等)のために、コストや責任を負わされそうになると、他者に押し付けて逃げるのが、ナルシシストの行動パターンです。

ナルシシストは弁が立つことが多いので、一見知的に見えても、実際のところはいつまでたっても成熟しないのは、この「高サプライ+低責任+低コスト」の方程式のためなのです。そしてえてして、賢い子供ほど、ナルシシスト親の責任とコストの肩代わりをし続ける羽目になります。

ナルシシストの「脳内ごっこ遊び」

普通の健全な人でも、時にはやってしまう責任転嫁や自己正当化は、「その時の自分の器が耐えきれなかった」状況依存的な側面があり、後から「あんなことをするのではなかった」と反省できます。

「あんなことをするのではなかった」の反省は、当時の自分の器のもろさ、弱さを認め、受け入れればこその態度です。ナルシシストは、自分の弱さを認め受け入れ、それでも前を向いて生きるということが、絶対にできません。

ですから、ナルシシストの責任転嫁や自己正当化は、共感性の欠如と他者への責任の全振りとして現れます。これもまた、先の「高サプライ+低責任+低コスト」を満たすための、一生をかけた「脳内ごっこ遊び」の結果です。

この違いが被害を受けた人の「説明しがたいモヤモヤ」になりやすいのです。

この「脳内ごっこ遊び」のルールは以下の通りです。

  • ナルシシスト本人が脚本家兼主役。
  • 美味しいところは全て主役が持って行く。主役は常に賞賛、もしくは同情される。
  • 子供や配偶者はごっこ遊びのキャスト。都合が悪くなれば即クランクアップ。相手の感情は関係なし。
  • 低責任+低コスト⇒地道な努力や現実の矛盾は無視、もしくは他人に押し付ける。
  • 反省、謝罪、改善の概念はない。ポーズで自分を責めて見せても、現実の行動は変わらない。

これだけ読めば大笑いするかもしれませんが、現実に巻き込まれると「たまったものではない」になります。判断力が未成熟で、親に全面的に依存せざるを得ない幼い子供であれば、尚のことです。

ナルシシスト親からの被害の回復は、認知、感情、身体神経系の三本柱で

ナルシシストの行動原理を文章化してみましたが、これはあくまで、認知(頭)の整理に過ぎません。まずは知っているだけでも、混乱は比較的軽くなるかもしれません。

そしてナルシシスト親からの被害は、他人からのそれよりもずっと、感情面で深い傷を負います。「頭での整理はできても、心情的には収まらない」のが当然です。抑圧していた怒りや悔しさを声に出す、体を使って吐き出すプロセスがいずれ必要になるでしょう。

また、認知、感情の癒しが進んだとしても、幼少期から身体の神経系に刻み込まれた「警戒モード」は、やはり簡単には解除されません。以下の記事で書いた「耐性の窓」を広げる習慣を、ともすると一生、息長く取り組み続ける、この三本柱がナルシシスト親からの被害の回復の道筋となります。

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第1回  結果を負うのは自分しかいない。「No」を言わなければ「Yes」と言ったと見なされる (約17分・無料で公開します)

🔗第1回 要約・氣づきメモ

第2回 「No」を言いづらい時、何を恐れているのか (約17分)
第3回 「人は安心の名の下に自由を手放す」責任と結果予測 (約14分)
第4回  速い思考と遅い思考・現実を見ることと選択肢を広げること (約18分)
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