【境界線と子供・下】年相応の限界訓練としつけの考え方の原則

子供の成長に応じた境界線の育て方

親御さんにとっては、自分自身の境界線問題と共に、我が子の境界線をどう育てるかも悩みの種でしょう。当然のことですが、子供の発達に従って、やるべきことは異なります。以下は、子供の成長の各段階における基本的な課題です。

誕生から生後5ヶ月

まずこの段階では、子供は安全で歓迎されていると感じることが最重要です。他の哺乳類と違って、人間の赤ちゃんは大変未熟で、無力な存在です。子牛や子馬が生まれ落ちて30分で自分の足で立ち、自ら母親の乳を飲む映像を見たことがあるかもしれません。人間の子供がそれをできるようになるには、一年以上待たなければなりません。

生後四ヶ月の赤ん坊が泣き叫ぶのは、世界が十分安全な場所であるかどうかを知ろうとするからです。その赤ん坊は不快と恐怖と孤独の中にいるのです。

(略)

「夜間はベビーベッドから抱き上げないことに決めてからは、私の四ヶ月の赤ん坊は泣かなくなったわ」と言うでしょう。その通りかもしれません。しかし、泣かなくなったのは幼児性鬱のせいかもしれないのです。幼児性鬱とは、子供が希望を失い、引きこもることです。

「世界は信頼に値する」基本的信頼を学ぶ、大変重要なスタートの時期です。

5ヶ月から10ヶ月まで

この頃になると、赤ん坊は「お母さんと私は同じではない」ということを学びます。そしてハイハイができるようになると、急速に外側の世界が広がります。しかしまだまだ、親を始めとした養育者に依存しなくてはなりません。

子供の絆作りはまだ主要な課題であり、情緒的安心も必要とされます。一方で、子供が親を通り越して外の世界に向かって行くことを、安全を確保しつつ後押しする時期です。

それまでの「母子の蜜月」が終わりを迎えつつあります。母親の方がその寂しさに負けてしまわず、子供の「孵化」に責任を持とうとする、親の子離れもこの時期から始まると言っても良いでしょう。

10ヵ月から18ヵ月まで

この時期の子供は、感情的にも認知的にも「No」を理解し、それに反応する能力を持っています。

子供は自分が「No」と言うことで、どのような結果になるのかを学んでいきます。子供が「No」「いや」を表明できるようになったこと、これは喜ぶべきことです。その子特有の自我が育ってきた証拠です。

一方で、子供に自分は宇宙の中心ではないことをわからせる仕事が始まります。子供は言葉を話し始めると、大人同士の会話に割って入ろうとするかもしれません。急速に身に着けている能力を、自分で試したくなります。子供の身になれば、幼児的万能感をフルに発揮したくなって当然です。しかしそれはやってはいけいないことだと、その度ごとに教えます。

幼児的万能感を、愛を以て砕き、小さな挫折を味わわせて乗り越えさせる、しつけがいよいよ本格化します。

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18ヵ月から36ヵ月まで

「三つ子の魂百まで」の時期です。この時期の子供は、人生には色々な限界があり、かつ分離していてもつながりを持てないわけではないことを悟り、更には分別を身に着けつつあります。

著者によれば、この段階における能力の目標は以下の通りです。

  1. 自意識と人から離れている自由を失うことなく、他者に感情的に愛着する能力。
  2. 愛を失うことを恐れずに、適切な「No」を言う能力。
  3. 感情的に引くことなく、他者の適切な「No」を受け入れる能力。

自我が芽生えつつある子供と、親が小競り合いをすることもあるでしょう。親の方が、子供に「No」「いや」と言われると、自分を否定されたかのように傷ついたり、「生意気だ」などと頭ごなしに押さえつけようとしないことが大切になります。

もし「本当は子供の言い分を通しても良いことなのに、それを受け入れられない」と氣づいたら、それは親御さんご自身の境界線が傷ついているためかもしれません。子供と向き合うのと共に、自分自身と向き合う作業が必要になるでしょう。

著者は「些細な小競り合いは山ほどあるのです。そのためにより大事なこと、すなわち愛情を築くことを見失うなら、結局は戦いに負けることになるのです」としています。大変重要な指摘です。譲ってはいけないことは何かを見極め、何もかも親が勝とうとしないことです。それをしてしまうと、子供は「何でも親の言う通りにしておけば面倒がない」を学習し、自分で考え選択する力を自ら放棄してしまいかねません。

3歳から5歳まで

この時期になると、子供は性役割を発達させます。男の子はお父さんのようになりたいと思い、女の子はお母さんのようになりたいと思います。また「○○ちゃんと結婚するの!」と言い出したり、服装の好みや遊びに男女差がはっきりと現れてきます。

男の子はお母さんを独占しようとするかもしれません。単に甘えるだけでなく、「お母さんと結婚する!」などと言い出した時は、「あなたがお母さんと結婚したいのはわかるけど、お母さんはお父さんと結婚してるのよ」とわからせます。これも境界線の一つです。

息子の氣持ちを母親が利用して、当の息子に「お父さんはお母さんのことをわかってくれないのよ。わかってくれるのはあなただけね」などと言ってしまうと、息子を自分の配偶者にしてしまいます。自我の発達途上にある子供を「親の配偶者」もしくは「親の親」にさせると、子供らしく過ごすことが難しくなり、成人後に悪影響が出やすいです。

二度と戻ってこない貴重な子供時代を、子供らしく過ごすためにも、子供の性役割の発達を認め受け止めつつ、親子間の境界線を明確に保つことが重要です。

6歳から11歳まで

小学生に当たるこの時期は、真に子供として過ごす最後の期間となります。この時期は勤勉性を身に着ける時期です。勉強やスポーツ、家の手伝いを通して勤勉性を身に着け、自己有能感を育てます。この自己有能感は問題解決能力や、責任感、自発性、自主性、自律性とも関りがあり、人と比べて優越感を持ったり、ちやほやされて満足する偽の自信とは異なる、真の自己信頼感の基礎になります。

また親と遊ぶことは減り、同性の友達と遊びを通して友情を育みます。コミュニケーションスキル、協力し合うこと、共感すること、また小さな喧嘩を通じて葛藤を恐れないことも学びます。

何でも親や、幼稚園・保育園の先生に決めてもらって従う時期から、自分で計画を立てたり、満足の遅延や、目標を持つことも学びます。試練の10代を迎えるための基礎作りの時期です。

境界線を育てる作業が、親から子供自身へと、徐々にバトンタッチされるために、学校の勉強だけでなく、身の回りのこと、例えば上靴を自分で洗ったり、自室の掃除をさせたり、「自分のことは(親任せではなく)自分で管理できる」実感と自信を育むことが大切です。

また自分のことだけでなく、洗濯物を取り込んだり、畳んだり、食事の際は皆の分のご飯を茶碗によそったりなど、他の家族の分の家事をも担うと、お客さんではなく家族というチームの一員という自覚が芽生え、誇りを持てます。これは思春期の反抗期の前にしつけることが肝心です。何でも親任せで育ってしまうと、成人後も他人任せから抜け出せません。お客さん人生になってしまいます。

12歳から18歳まで

中高生に当たるこの時期は、第二次性徴期にも当たり、体も心も大きく成長し変化します。思春期の反抗期もこの時期で、親の方も頭ではわかっていても、我が子がむっつりと黙り込んだり、「生んでくれと頼んだ覚えはない!」などと言い出したりすると、やはり戸惑うかもしれません。

高校卒業後は、進学するにせよ、就職するにせよ、いずれにしても独り立ちの時期です。

賢明な親なら、自分の十代の子供たちが間もなく社会へ放り出されることを常に頭の片隅に置いています。親が考える問題は「どうやって行儀よくさせようか」ではなく、「どうやって一人でもやっていけるように助けたらいいか」になります。

「どうやって一人でもやっていけるか」これは進路について、折に触れてアドバイスをしたり、様々な知識・情報を与えたりするだけでなく(学校の進路指導の先生に任せきりではなく)、子供が自分で尊敬し、相談できる相手を見つける、そうした信頼関係を築けるスキルを身に着けていることも含みます。

著者は「甘すぎる親は、十代の子供が誰か尊敬すべき人を必要としているときに、子供の親友になろうとしています」と述べています。親が「自分は子供の親友だ」と思いたがるのは、不自然であり、歪です。子供においても同様です。成長した子供にとって、親は「何かあった時には戻って来れる港」であるべきですが、船がいつまでも港に停泊していては、船も港も機能していません。

そして港は親だけではないと思えていること、これが「社会に出ても一人でやっていける」成長した子供の心象風景でしょう。

しつけの考え方の原則

しつけについて、決まりきったノウハウというより、考え方の原則について、著者が挙げている項目は以下の通りです。

①子供に結果を負わせる目的は、自分の人生に対する責任感覚と支配権を増強するため

子供の無力感を増長しては本末転倒です。自分がやったことの結果を受け止める、これが怖い現実から逃げない克己心を養います。「起きたことは起きたこととして、結果は結果として、次はどんな結果を目指しますか?」テストであれ、ボール遊びをして近隣の人の庭を荒らしたことであれ、結果から眼をそらさず、未来にも目を向ける、この考え方があると、自分の人生を責任をもって生きる実感を養えるでしょう。

②結果は年齢相応でなくてはならない

十代の子にスパンク(お尻を叩くこと)をしても、辱めるだけです。自尊心を著しく傷つけます。しかし、4歳の子供には、上手くやれば規律を理解させる助けになるでしょう。

③違反の深刻さに見合ったペナルティを課す

本書に、著者のクライアントが次のように言った言葉があります。

「私は小さなことでも大きなことでも、いつも激しく叩かれたものでした。それでそのうち私はもっと大それたことをするようになったのです。その方が得に思えたのです」

子供が万引きをしたら、ビンタをすることもあるでしょう。この場合の親の本氣の怒りは、「自分の犯した罪に親が真剣に心を痛めている」というメッセージになります。しかし、玄関の靴を揃えなかったらビンタされるようでは、「自分はこの家の囚人だ」というメッセージになってしまいます。

逆も同様で、万引きを「まあ、そんな年頃だし」と事なかれ主義で見逃せば、「親は自分に本氣で向き合ってない」と子供の方は受け取るでしょう。「もっと悪いことをすれば、親は本氣になるだろうか?自分のために、本氣で泣いたり、怒ったりするだろうか・・?」これが悪さをやめられない子供からのメッセージなのです。

④境界線の目標は、子供が自ら動機を持って行動し、自らに結果を課すようになること

「お母さんがそう言うから」「先生がそう言うから」ではありません。自分にとって大切だからそうする、成長した子供がこの動機で日々を生きていれば、その年齢における境界線の育成は成功しています。

その反対が、人の目を過剰に氣にし、自分の良心に聴くことを放棄し、TVや会社や行政が「指示してくれた通りにしておけば、自分は傷つかず当座はやり過ごせる」、そしてそれを恥ずかしいとも思わない、「何が大事か」を見失った令和の日本の大人たちです。境界線はほぼありません。著者が皮肉めいて表現しているように「迎合的なオウム」です。

しかし、ごく普通の良識のある親御さんなら「指示待ちではなく、自分で判断して物事を選び取るようになってほしい」と我が子に願うのではないでしょうか・・・?

境界線を育てるのは深い思慮と、目的意識、判断選択をし続けるたゆまぬ、そして終わりのない努力が必要です。自分も我が子も「迎合的なオウムにならない」「自分にとって大切なことのために、少々怖くても、面倒でもやり遂げる」人生のための、一助になれば幸いです。

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第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
第3回 「何が嫌だったか」を自分に質問する。目的語を補う
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第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
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