【ケーススタディ】過干渉・かまいすぎの親への対処方法

過干渉の親の罪悪感による操作

過干渉・かまいすぎの親についての記事は以前にも書きましたが、今回は具体的な事例を挙げてケーススタディをしていきます。原理原則を理解できたとしても、日常生活で具体的な行動に落とし込めないと、「頭ではわかっているんだけど・・」にやはりなるものです。

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過干渉・かまいすぎは善意の外見を伴っているので、対処が難しく感じるのも当然です。スーザン・フォワード「毒になる親 一生苦しむ子供」に挙げられた事例を使っていきます。

【32歳の女性テニスコーチの例】

子供の時からあらゆることに干渉してきた母は、彼女が大人になってもそれをやめようとせず、特に父親が死んでからというもの、ますますひどくなった。

頼みもしないのに食事を作って持ってくるなどは序の口で、留守の間に勝手に部屋に入ってきて掃除をしたり、クローゼットの中の服を整理(という名目で点検)したり、ある時など部屋の模様替えまでしていったという。

やめてくれと頼むと、見るからに傷ついたような顔をして目に涙まで浮かべ、「母親が娘の世話をするのが何がいけないの」という返事が返ってくる。仕事で地方に行かなければならない時など、「一人で運転していくのは危ない」と言ってついて来ようとする。

断ると、まるで彼女が寂しい母親を置き去りにして一人で遊びにしていこうとするひどい娘であるかのような反応をする。

たまに思い切って文句を言うと、母は見るからに傷ついた表情を見せ、罪悪感に襲われるのが常だった。だがその一方で、氣を使って言葉をかけると「心配しなくていいのよ、私のことは。大丈夫だから」という言葉が返ってくる。

この女性は、母親の過干渉のために重いうつになってしまいました。

フォワードはこう解説しています。

これは、大人になってもなお、心を操ってコントロールしようとする親に苦しめられている被害者の典型的な例である。そのような親を持った子供は、逆らえば「手助けしようとしている優しい親」または「可哀相な親」を傷つけることになるという無言の脅迫に耐えかね、爆発しそうな自分を抱えたままノイローゼ寸前になっている。

子供は親に「幸せでいて欲しい」と本能的に願います。それを「親を悲しませるなんて、親不孝者」という罪悪感に捻じ曲げて支配する、典型中の典型です。ここでは、娘が母親と、そして自分自身にどう向き合っていくかのステップについて解説します。

①「自分の生活が親の過干渉により侵害されている」に向き合う⇒優先順位と限界設定

まずは見出しの通り、「自分の生活が親の過干渉により侵害されている」に向き合います。そして感じるべき怒りは感じて良いのだと、自分に許可を出します。過干渉で操作する方は、怒りを感じることに罪悪感を持たせようとします。これをすると、自分の本音は押し込められ、フォワードの解説通り「爆発しそうになりながら、ノイローゼ寸前」になってしまいます。

怒りは自分の外に出さなければなりません。

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自分一人の時に、思い切り吐き出した後、この怒りをどのように適切に、母親に対して表現するかに方向づけます。これが適切に「No」を言う境界線を育てる第一歩です。怒りは境界線が侵されていることを知らせるレーダーです。罪悪感で操作されるとは、この怒りのレーダーが壊されているということです。

そして自分の生活の優先順位づけと限界設定をします。どこまでなら許容範囲なのか。家の鍵を返してもらい、留守中に勝手に家に入らないようにするのか。母親がやっていた家事は一切断るのか。遠征が多い仕事なら、やはり時には母親に家事を手伝ってもらいたいのか。その場合は、何をどこまで頼むのか。こうした細かな具体的なことを、自分の方から決めておきます。

これを曖昧にすると「これくらい良いじゃない」「いや、困る」の押し問答になってしまいます。

②配慮とは相手のご機嫌取りではない

エーリッヒ・フロム「愛するということ」によれば、愛とは配慮・尊重・責任・関心(知)の4つです。この母親は「娘に関心を持って配慮しているつもり」かもしれませんが、現実の娘を全く見ていません。ノイローゼ寸前の娘の状態には関心がなく、配慮も尊重も、その結果、責任もありません。

そしてまた、娘の方は、自分の自由意志と「母親を傷つけてしまう」ことの板挟みになっています。しかしここには、「配慮とは相手のご機嫌取りをすること」という取り違えがあります。

責任を持って、相手の成長を促そうとする場合、時には泣く思いをさせることもあるでしょう。その時は理解されず、むくれた顔をされることや、陰口を叩かれることを覚悟しなければ、「本当に大切なこと」を伝えることはできません。

彼女はプロテニスコーチなので、「ご機嫌取りはコーチングではないし、愛でもない」ことを思い出してもらいます。選手に対してやれていたことを、母親にも応用していきます。

③「手助けしている優しい母親」「可哀相な母親」は真実の愛か?

②で見た通り、母親の行動には配慮・尊重・責任・関心(知)が伴った愛がありません。娘の心に埋め込まれた「手助けしている優しい母親」「可哀相な母親」は愛の虚像でしかありません。

これを認めることは、他人に対してよりも激しい葛藤が生じます。自分の親が、「愛してる風を装っていたけれど、真実の愛ではなかった」と認めるのは、とても辛い作業だからです。

悲しいし、残念だし、寂しい氣持ちが湧き上がるのが当然です。しかしその悲しみを「なかったことにする」と、いつまでたっても同じことは続いてしまいます。

怒りと同じく、この悲しみや寂しさをも、否定しない。自己共感しつつ、時間をかけて構わないので癒すプロセスもまた、大変重要です。

④「お母さん、不安なんだね」⇒感情の所有者を明確にし、課題の分離をする

娘が母親に対して抱いている怒りや悲しみは、娘自身のものです。これに良い悪いはありません。

それと同じく、母親が抱えている不安は、母親自身のものです。これもまた、良い悪いはありません。この不安を「自分が向き合おうとせず」「手っ取り早く解消しようとして」娘にかまい過ぎて押し付けるのが、良くない結果を招いています。

母親は「娘が私の不安を引き起こしている」と捉えているかもしれませんが、違います。自分の見捨てられ不安としがみつき願望を、「自分が必要とされる状況を自ら作り出し」「娘を使って」解消しようとしています。この見捨てられ不安としがみつき願望は、主には親の幼少期に、その親によって植え付けられてしまったものです。大変氣の毒ではありますが、やはり親自身が解消していくものです。

「お母さん、不安なの?不安が辛い?もしそうだとしたら、それは私の問題ではなく、お母さんの問題だよね

感情の所有者を明確にし、課題の分離をします。これだけ言っても、母親はすぐには理解できないかもしれません。ここでは、母親に理解してもらうと言うより、娘自身のアファメーション(自己宣言文)として表明します。

「お母さんが不安を抱えているのは、大変なんだろうと思うよ。氣の毒だと思うよ。でもそれは、私の問題じゃなくて、お母さんが自分で向き合って、何とかするしかないよね」この言葉は母親に直接言わなくても良いので、娘自身の心の中に持っておきます。

この不安を、例えば「腰痛」と置き換えるとわかりやすいかもしれません。腰痛が辛くて大変だ、それに理解や同情を示すことはできます。しかし、娘であろうと成り代わって腰痛を何とかしてあげることはできません。時には腰をさすってあげても、自分の生活を犠牲にしてまでやることでもありません。

このように考えると、「自分が母親の不安を何とかすることはしなくて良いし、できることでもない」と課題の分離を肯定できるでしょう。この課題の分離ができていないと、母親の困った行動にただ文句を言う⇒「娘を心配して何が悪いの?」⇒罪悪感に苛まれる、のループを抜け出せません。

⑤「私は一人でやってみたいの。その方が自信になるから」⇒自分の目標を表明

娘は「たまに思い切って文句を言う」そうです。これは何でも言いなりになるよりかは、自分の氣持ちを正直に言えています。

ここで「文句を言う」からもう一段深掘りして、「自分がどうしたいか」の目標に意識を向けます。「文句を言う」のは問題に意識が向いています。そこから「自分なりの目標」を探っていきます。

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例えば見出しのように「私は一人でやってみたいの。その方が自信になるから」と自分の目標とその理由を伝えられたら、「お母さん、そんなことをされたら嫌なの!本当にやめてよ!」と文句を言うだけの時と、印象はどう変わるでしょうか?

「文句を言う」のはYouメッセージになりがちです。「なんであんたは・・・!」だと反発を招きやすいです。自分の目標はIメッセージです。32歳の女性にとっての「私は一人でやってみたい」は至極真っ当な目標です。これが15歳なら、「高校を卒業するまで待ったら?」になってもおかしくありません。

そしてこの目標を言っても、もしかすると「お母さんはもう必要ないのね!」になるかもしれません。

その時は「必要とされないのは、寂しいかもしれないね。でも今までのやり方とは違ったことで、お母さんを必要とする時が来るかもしれない。だから、これまでのような『やり方』で必要としたりされたりは、もう卒業したいの。私はもう32歳だもの。お母さんは私をいつまでも8歳だと思っておきたいのかもしれないけど・・」などと伝えてみます。

母親との関係を完全に断ち切りたいわけではない、過剰な「かまい過ぎの世話焼き」が問題で、それを変えて欲しい場合は、互いを必要とする「やり方」を変えたいと伝えます。そうすると、相手の人格を否定することにはなりません。

「例えば、たまに外でランチや、買い物の息抜きに付き合ってもらうこともあるかもよ」など、自分の許容範囲の「違うやり方」を例として挙げておくと、母親の方もイメージがしやすいでしょう。こうした代替え案をあらかじめ考えておくのも、限界設定の一つです。

ここまで言っても、母親は「そうね、わかった」にはならず、不服そうな顔をしたり、不平不満を言い募ってくるかもしれません。その場合は長くは聴かず、「今日、私が言ったこと、時間をかけて良いからゆっくり考えてみてくれない?お母さんが考えた後、また話をしましょう」と猶予する時間を与え、その場を切り上げます。母親の相変わらずの不満を長く聴いてしまうと、自分が伝えたことがどこかへ飛んで行ってしまうからです。

相手がどう出るかの前に、自分の限界設定、優先順位付け、課題の分離、目標設定

これは「毒になる親」の事例の、仮定のケーススタディなので、現実には違う着地点になることも勿論あります。

私たちは誰でも「あの困った人、どうにかして」をやりたくなります。そして「相手が変わること」を要求したくなります。勿論「こうしてほしい」「これはやめてほしい」とまず伝えないと、自分が「察してちゃん」になってしまいます。ただ二度三度伝えても変わりそうにないのなら、相手は「問題を問題視していない」段階です。

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ですので、相手に対し「何で変わってくれないの!」の前に、自分の限界設定、優先順位付け、課題の分離と目標設定をします。これが価値判断基準の「自分軸」と、根拠を伴った「No」を言う、境界線を養うことそのものです。

母親がどう出るかはわかりません。娘の話には全く聞く耳を持たず、「この恩知らず!親不孝者!こんな娘に育てたつもりはない!」と捨て台詞を吐くかもしれません。しかしこの価値判断基準と境界線を育てていれば、「聞く耳を持ってもらえなかったのは残念だけど、それもまた、今のお母さんが選択したこと。その選択責任はお母さんが負うのだ」と分離できるでしょう。この場合「ランチなら付き合えるよ」の代替え案を、自分から放棄し、歩み寄るのをやめたのは母親です。

この結果を踏まえて「自分がどうしたいか。どこまで母親と付き合うか」をまた一回一回考えます。この作業は頭を使いますが、「自分の自由意志を押し殺しっぱなしの、爆発しそうなノイローゼ寸前」には、もうならないでしょう。

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第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
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