【境界線と仕事】境界線の欠如によって起きる職場の問題9つ

職場での問題は境界線の欠如に起因する

仕事は単なる生活費を稼ぐ手段だけではなく、社会とのつながりを実感し、また社会人としての成長や、そして生き甲斐をも得られるものです。

自分の労力、才能、時間を他者や社会全体のために捧げる、即ち奉仕することで、私たちは「与えられて当然」の子供から、社会の構成員としての誇りを持った大人になっていきます。

著者はこのことを、「品性の発達」と表現しています。クレクレ星人は品性の高い人とは言い難いです。そして仕事を通じて技能だけでなく、精神的、霊的にも成長するためにこそ、境界線が不可欠になります。

裏から言えば、境界線の欠如が本来は不要な職場の問題を引き起こしています。以下は、境界線の欠如による職場の様々な問題について取り上げていきます。

問題その1 他人の責任を負わされる

自分の仕事のパートナーが、事あるごとに「外出ついでに、これを取って来てよ」とか、「この資料を会場に持って行ってよ」などと本来は自分がやるべき用事を押し付け、すっかりやる氣を削がれてしまった女性の例が本書に挙げられています。

小さなことだとつい譲ってしまったり、「お客様に迷惑を掛けたらいけないから」と真面目な人ほど引き受けてしまいがちでしょう。しかし、そのせいで自分の仕事が侵食されたり、そのパートナーが「お客様や上司に叱られること」を自分が度々防ごうとするのは、子供の宿題を自分がやる親と一緒です。

相手が新人とか、異動してきたばかりとか、或いは病氣上がりで本調子ではない時に、さりげなくフォローするのはまた別です。また、自分の仕事に余裕がある時に「何かお手伝いしましょうか?」とこちらから声を掛けるのは、相手のためだけではなく、全体の仕事が円滑に回るためです。

そのことと、「その人が本来負うべき責任を、他人に負わせようとする」の区別を明確に付けること、それは「自分が背負うべきナップザックを他人に押し付けようとする」ことです。

相手に本当に余裕がない時に助けるのは「巨石を共に背負う」こと。目には見えないので混同しがちですが、この区別こそが境界線の基礎です。

問題その2 時間外勤務をしすぎる

著者が開業したての頃、事務仕事を週20時間の契約で雇った女性がいました。出勤2日目に、彼女に一山の仕事を渡したところ、10分後に「週20時間勤務の契約でしたが、たった今、40時間分の仕事を渡されました。どの20時間分の仕事を処理すればよいですか?」と言われたとのことでした。

著者は「彼女の言う通りだった。私はもっと彼女にお金を払うか、仕事を減らすか、或いはもう一人雇うかしなければならなかった。私が責任を取って改善しなければならないことだった」と述べています。

世の中の雇用主と被雇用者は、このように客観的でも率直でも謙虚でもありません。どうしても残業が多くなる決算前とか、突発的な事故の対応での休日出勤など、社会通念上受け入れざるを得ないこともありますが、夜中までの残業、休日出勤、持ち帰りの仕事が常態化していることは、本来当たり前に受け入れてはいけないことです。過労で倒れても、会社は責任を取りません。

自分の時間外勤務が、社会通念上受け入れざるを得ない範囲なのか、「これが続いたら自分の健康と人生が侵されてしまう」ことか、それを判断し、選択するのはやはり自分です。一人で抱え込まずに、しかるべき人に相談して客観視することも、自分の責任になります。

また視野を広げて「この会社で勤めること以外にも、生活の糧を得る手段はいくらでもある」と心の準備をしておくと、「やっぱり我慢して頑張らなきゃいけない」に嵌り込まずにすみます。

問題その3 誤った優先順位

優先順位付けは当たり前のようで、当たり前には中々できないことの一つでしょう。自分の仕事にフラストレーションを感じている時は、「大事にするべきことに充分時間と労力を割けていない」ジレンマも原因の一つです。

犠牲になりやすのは「緊急度は低いけれど、重要度の高い事」です。職場のコミュニケーションや、OJTはその最たるものかもしれません。一日のTo doリストを、始業の際に作る人も多いでしょうが、「今日中にやるべき業務」だけでなく、「犠牲にしてしまいやすい『緊急度は低いけれど、重要度の高い事』」をリストに入れ、日々5分でも10分でも行うと、その積み重ねは違いを生みます。

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私が百貨店勤務時代、有能と評判だったある売り場のマネジャーは、朝礼前の売り場の掃除の時間の際、各売り場を回って、必ず前日の様子を聴いて回っていました。あまり時間を掛けないピンポイントの質問と、そしてちょっとした笑いのある会話が印象的でした。こうやって「聴くべき情報を収集する」「販売員にリラックスしてもらいながら、信頼関係を築く」ことをやっていたのでしょう。こうしたことも、その意義が腑落ちしていないと誰もがやることではありません。

問題その4 厄介な同僚

意地悪な人、何回注意してもスルーする人、どんな職場にも「困った人」は存在するものです。相手がサディスティックなサイコパスや境界性人格障害などで、逃げるしかない場合と、「どこへ行ったってそんなものよ」「あんな人はまだましな方よ」の場合に大別できるでしょう。

いずれにしても「自分が影響を受けない。受けても最小限にとどめる」と決意することが第一歩であり、また同時に自分の目標になります。そして何より孤立しないこと、「こんな風に思う私の方がおかしいのかな?」と思ってしまうと、自分を追い詰めます。信頼できる相談相手を見つけて、客観視できると次に自分がどうすればよいかわかりやすくなります。

悪氣はなく天然だったり、善意の人ではあるけれど社会人としては未熟だったり、「相手に何かを投げ込まなければ氣が済まない」人だったり、様々なケースがあるので、まず相手のタイプを見極める観察をします。観察は客観視の一つで、俯瞰する訓練にもなります。俯瞰できるようになると、感情は感情として大事にしながら、自分がいつまでも感情に巻き込まれにくくなります。

問題その5 批判的な態度

著者が挙げている「批判的な態度」とは、会社の方針に納得がいかずに批判的になることや、思い通りにはならないことに、ついつい愚痴やぼやきが出てしまうことではありません。

相手が誰であっても、欠点をあげつらって、悪口を言わずにはいられない人はいるものです。「この人きっと、陰で私の悪口も言ってるんだろうなあ・・」と思う人に、出会ったことがないでしょうか・・・?そしてその感想は、他の人も大なり小なり抱えている筈です。

どんな人に囲まれていても、絶対に悪口を言わない人と、その対極にどんなにいい人に囲まれていても、その全ての人の粗探しをして悪口を言う人がいます。私がある時「人からどう思われるかを氣にしても仕方がない」と悟ったのは、この経験があったせいでもあります。

自分では抱えきれない辛さがあって、つい愚痴や悪口が出てしまうことと、人の粗探しをして悪口を言うのが趣味なのは異なります。後者は放っておくしかありません。但しそのせいで、自分の仕事に支障をきたしている場合は、しかるべき人や部署に相談するなどして、冷静かつ断固とした態度を取る、これも「No」を示す境界線です。

また同時に、「少々のことでは愚痴っぽくならない」葛藤耐性を高めることも、自分の境界線を育てる責任の一つです。

問題その6 権威との摩擦

感情転移と言って、過去の対人関係におけるトラウマが未解決だと、似たような相手に同じ反応が起きることがあります。自分の親が高圧的で、そのことに苦しめられ、未だ心の傷が癒されていないと、似たような高圧的な上司や年上の職場の人、場合によってはお客様にその感情が蘇ってしまうことです。

上司は単に仕事上の注意や、注文を付けたに過ぎないのに、「けなされた」「自分を押さえつけようとしている」「自分を馬鹿にしている」などと受け取ってしまうことです。

何にせよ、自分の感情は、貴方に何かを伝えています。まず客観的に状況を観察してみます。他の同僚は大して氣にしていないのに、自分は後々まで引きずってしまう場合は、自分の反応が過剰になっている可能性があります。そしてそれは、自分が対処するべきことである、というサインです。恰も、冷房に強い人と弱い人がいて、弱い人はそれなりに対処せざるを得ないのと同様です。

自分の親やきょうだい、他に過去に出会った人達から受けた傷が、癒されるのを待っています。そしてそれには充分に時間を掛け、焦らないこともまた大切です。

問題その7 仕事に多くを期待しすぎる

「アットホームな職場です」という求人募集広告がよくあります。お互い氣持ちよく助け合い、切磋琢磨はしてもギスギスはせず、仕事を通じて皆が精神的にも成長できる職場は理想的でしょう。

しかし、「問題は、基礎的な養育、関係、自尊心、承認など、親が自分に与えてくれなかったものを仕事に求めようとするときに起こります」と著者が指摘している通りです。かなりの年齢や地位になっても、このことから抜けきらない人は少なくありません。

自尊心を傷つけてはいけませんし、良好な関係を築くことや、上位者は下位者に「仕事の」承認をすることも動機付けのために大切です。しかしそれは仕事の目的ではありません。

どんな仕事も、縁の下の力持ちです。舞台上でスポットライトを浴び、拍手喝采を受けたとしても、主役はお客様です。お客様が自ずと拍手喝采をしたくなるような演技を披露するのが仕事です。自分がちやほやされたくて何かの仕事をするのは、仕事になっていません。

仕事なのに自分がちやほやされなければ氣が済まない、インスタなどのSNSで「見せびらかさなければ」氣が済まないのは、自分の何かが癒されず、満たされていないのです。

問題その8 仕事のストレスを家庭に持ち帰る

個人的な問題を職場に持ち込まないのと同様に、仕事に対しても境界線を引き、家庭に持ち込まない心がけが大切です。一つ目は感情的なこと、もう一つは時間やエネルギーなどの有限な資源です。

感情的な問題は、どうしても一人では抱えきれない時は、家族に話を聴いてもらうことを無理に我慢しない方がいいでしょう。しかしその時も、友人に愚痴を聴いてもらう時と同様に、相手の時間やコンディションに配慮し、相手の境界線を無闇に乗り越えない、過度な負担を掛けないことが肝要です。あくまで対処する責任は自分にあり、解決の主体者は自分です。そのことと、何でもかんでも職場の愚痴を家族に言いふらすのは別です。

もう一つの問題は、問題その2で取り上げた過度な時間外勤務や、時間内に終わっても心身の不調をきたすような過剰労働になっていないかどうかです。家庭のある人は、仕事の境界線問題が家族にも影響を及ぼすことを、常日頃から意識する必要があります。

問題その9 自分の仕事を嫌うこと

仕事は自分の向き不向き、好き嫌いを教えてくれます。「大して好きではないけれど、他の人よりも得意で向いているから」その仕事を選んだ、ということもあるでしょう。しかし、自分の仕事が嫌いであっては、仕事に熱意を持てず、創意工夫をしようとはしません。

職場の上司が本当に嫌いで、やる氣を削ぐようなことばかりされると、いつの間にか仕事自体が嫌いになってしまうことも起こります。しかしよくよく考えればわかることですが、自分の仕事を必要としている人ーお客様や取引先や他部署の人々ーにとっては、自分の職場の人間関係がどのようなものかは関係ありません。上司が嫌いでやる氣を失いがちになっても、売り場の掃除に手を抜いて良い理由にはなりません。

人の上に立つ人は、従業員を大事にすれば、その従業員は言われなくてもお客様を大事にし、自分の仕事を愛し、誇りを持つようになります。自分が人の上に立った時はそうしても、自分がそう扱われなかったからと言って、仕事をなおざりにはしない、これが「他人に安易に境界線を侵されない」品位の高い態度です。

仕事は神と自分との二人三脚

仕事はどうしても、対価を稼ぐという物質的なことに意識が向きがちです。しかしそれだけだと、「今だけ・金だけ・自分だけ」「損をすることは何が何でもやらない」「誰かに嫌なことを押し付けて知らん顔をする」が発生しやすいのもまた職場かもしれません。

どんな会社でも、全く公平な人事などなく、理不尽なこと、報われないことも多々起きます。しかしだからと言って、自ら打算的になり品位を失えば、自分の境界線を健全に育てたとは言い難いです。悔しさは大事にしながら、自分が押しつぶされたり、「あの人たちがやってるんだから自分だってやっても構わない」と自分から同じ穴の狢にならないことです。

あなたが自分の才能を発達させるとき、仕事はあなたと神の間の共同作業であると認識しましょう。神はあなたに賜物をお与えになり、それをあなたが発達させることを願われます。

著者は敬虔なクリスチャンで、本書には度々聖書からの引用があります。日本人にはキリスト教や聖書は余り馴染みがないため、これまで上記のような引用はどちらかと言えば避けてきました。

しかしクリスチャンでなくても、特定の宗教を信仰していなくても、神様が私たちと二人三脚で仕事をなさろうとしている。どこか高く遠い所から、救ってやろうとするのではなく、今貴方の、私の隣にいて、一緒に悩んだり、励ましたり、喜んだりして下さる。自分の才能は平凡で、他の人と比べてどうということはないかもしれない、しかしその仕事に込める心は、誰でもなく自分だけのもので、それを神様は知っていて下さる、そう思えると、物質的なことや、人間関係などの様々な困難を希望をもって乗り越えて行けるかもしれません。

そうするとまた、仕事を通してアイデンティティを確立でき、「自分は何者なのか」の境界線がより健全に、堅固なものになっていくでしょう。

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第1回 自尊感情とは何か。何故大事か
第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
第3回 「何が嫌だったか」を自分に質問する。目的語を補う
第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
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    生きづらい貴方へ

    自尊感情(self-esteem)とは「かけがえのなさ」。そのままの自分で、かけがえがないと思えてこそ、自分も他人も大切にできます。自尊感情を高め、人と比べない、自分にダメ出ししない、依存も支配も執着も、しない、させない、されない自分に。