実は自信を失う「虎の威を借る狐」・権威づけにご用心

「虎の威を借る狐」の卑怯さとは

「虎の威を借る狐」とは、「他人の権力を後ろ盾にして威張ること」です。
他人の権威をかさに着て威張る人に、好感を持てないのは当然です。

「社長の命令なんだよ!文句を言うな!」と言われると、仕方なく従っても、お腹の中では「何だよ・・・。自分の言葉で説得できないのか」と思ったりします。

そう、実際に「自分の言葉では説得できない」からこそ、虎の威を借りてしまうのです。水戸黄門の印籠で相手をひれ伏せようとしているのと同じです。
同じ業務命令でも、その人が自分の言葉で、何故それをしなくてはならないのか、一生懸命伝えようとしたら、「その人」を悪く思うことはないでしょう。

つまりここには、「自分の責任を逃れ、他人の威光を借りて、人を思い通りに動かそうとする卑怯さ」があり、人はこれに不快な反応を示します。

そしてこれは、その時はうまくいったように思えても、その人自身が「私は虎の威を借る狐だ」という暗示を自分で入れてしまい、実は益々自信を失ってしまいます。
「私は決して虎にはなれない」、或いは「狐の自分で充分OKだと思えない」に自分からなってしまいます。

自信がないから「虎の威を借る」のも事実ですが、潜在意識には「虎の威を借るから、自信がなくなる」というひっくり返った暗示が入ります。

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「私には自信がない」の暗示を入れてしまう例

人は自分に自信をつけようとしているつもりで、実は「私は虎の威を借りなくてはならない狐だ」という暗示を自分で入れてしまう、こうした罠は、日常のあちこちにあります。
いくつか例を挙げると

  • 芸能人やスポーツ選手のサイン色紙を、店頭に飾る。⇒自分の店は、これらの芸能人やスポーツ選手よりも格下だ、という暗示を自分で入れてしまっています。オーナーが自分の店の格を、どの程度に置きたいのかがこうしたことに現れます。
  • facebookなどのSNSで、「有名人だから」「有力者だから」という理由だけで「友達」になろうとする。或いは、有名人とのツーショット写真を自分のプロフィール写真にする。有名人であってもなくても、「その人」を大事にしたい、リスペクトする気持ちがなければ、「虎の威を借る狐」になってしまいます。相手の威光を借りて、自分の価値を上げようとするのは、結局はその相手を利用しています。
  • 名刺やプロフィールに、「実際には活用していない資格」「名前だけの役職」をずらずらと挙げる。
  • 「私の主人がどこそこに勤めていて」「私の子供がどこそこ大学に進学して」を聞かれてもいないのに自分から言う。
  • 「私は誰それに認められました」「こんな著名人・有名企業と仕事をしました」と自分から言う。著名人に推薦文を書いてもらうこともありますが、自分の口から言うのはまた違います。

虎の威を借りないとは、慎みある態度とも言い換えられるでしょう。

慎みという言葉が、最近は余り言われなくなったかもしれません。慎みある態度は、力のない人には取れません。本当に自信がある人は、決して威張らず、目立とうともしないのは、この慎みによるところが大きいでしょう。

威張ること、自慢すること、誰かの取り巻きになったり、誰かを取り巻きにさせたり。自分に自信がないからこうしたことをしてしまいますが、逆もまた真なりでで「私は自分に自信がない」と自分で暗示を入れてしまいます。

また逆に、上記のような慎みのないことをしない、これを心掛けると、「自分は自分でいい」「私は誰かの威光を借りる必要のない人間だ」という暗示を、そのたびごとに潜在意識に入れることができます。

「虎の威を借る狐」は原始的防衛機制の「取り入れ」

それにしても、何故人は虎の威を借る狐をやってしまうのでしょうか。

虎の威を借る狐は、精神分析で言うところの原始的(或いは未熟な)防衛機制の一つの「取り入れ」(introjection)です。

防衛機制とは、簡単に言えば人がストレスから自分を守るために無意識でやることです。これには様々な種類があり、自分や他人を傷つけるものから、勇気や感謝、節制、昇華など成熟した精神性の発露となるものまであります。ちなみに弊社で重視する自尊感情が豊かになることとは、成熟した防衛機制を使えるようになることでもあります。

「取り入れ」とは、例えば幼い子供たちがごっこ遊びをしたり、また、ティーンエイジャーがアイドルやスポーツ選手の真似をしたりすることです。その昔、「聖子ちゃんカット」が若い女性たちに流行りましたが、中年以上になるとそのようなことはやりません。つまりそのようなことは、どこか幼い行為だとわかっているからです。

「取り入れ」とは、望ましい他者(アイドルやスポーツ選手や、ごっこ遊びでのウルトラマンなど)の性質を「取り入れる」ことです。そして自分も、望ましい他者と同じ性質がある、と思い込もうとしています。幼少期やティーンエイジャーの「取り入れ」は、内面に倫理観を養う(ままごとをして家族のルールを遊びの中で学ぶ、など)側面があり、悪いことばかりではありません。

しかし、自我が健全に発達せずに成人してしまうと、虎の威を借る狐をやってしまいます。自分は自分でいいと思えない、自尊感情の低さの表れでもあります。

「私はこう思う」から逃げると、権威に頼りたくなる

虎の威、つまり権威を借りたがるのは、冒頭の例でもあった通り「私はこう思う」を伝えたがらない時です。

「私はこう思う」を伝えるのは、人からの反論にあう可能性があります。この反論を、単に考えが違うだけなのに、まるで自分の全存在を否定されるかのように捉えていると、「私はこう思う」が言えなくなってしまいます。

「私はこう思う」を伝えるのは責任と勇氣、相手にいろいろな角度から説明し、また相手の言い分を受け止めるという根気強さが必要です。

だからこそ、てっとり早く「虎の威」を借りた方が楽なのです。「社長がこう言ったから・・」ですがそれと引き換えに、自分にしか育めない勇氣と根氣強さを放棄し、また人からの信頼を失ってしまいます。責任を持とうとしない人が、人から信頼されることはありません。

責任、勇氣、根気強さ、そして信頼は、自尊感情の中身です。自尊感情が豊かであれば、虎の威を借る必要はありません。

相手を思いやるため、引用としての権威はOK

ただし、権威を利用するのが、何が何でも悪いわけではありません。

引用として、権威のある人の言葉を借りるのは、相手のためになることもあります。

例えば「松下幸之助が『素直さが大事』だと言っていました」と、「素直さが大事よ!」と言われるのでは、受け取り方が違うかと思います。
直接「素直さが大事よ!」と言うと、相手は上から目線のお説教をされているかのように受け取ってしまいかねません。

「何であんたに説教されなきゃならないの!?」と反発し、肝心の「素直さが大事」のメッセージは伝わりません。

相手と同じ目の高さに立ちながら、特に心のあり方に関するメッセージを伝えたい場合は、こうした権威ある人(この場合は松下幸之助)の言葉を引用するのは、相手への思いやりになります。
これは自分の権威づけのためではなく、相手のためです。

ただこれも、あまり再々使うと「自分の言葉で言えないの?」になりますので、ここぞという時に絞るのが効果的です。

権威は美貌と同じく、人様が結果的に「感じる」もの

自分の美貌に内心自負がある人でも、普通の感覚の人ならそれをひけらかしたりはしません。
また、「きれいでいたい」気持ちは大切ですが、その人がきれいかどうかは、自分が決めることではありません。

権威も同じです。

並々ならぬ努力の結果、人様が「あの人は○○の権威だ」と結果的に感じ取るものです。
「私は美人」と自分で言うのが滑稽なように、「私は○○の権威です」と自分から言うのはおかしなことです。

そしてどんな仕事も、自分の権威づけのためにするものではありません。仕事とは人様のニーズを満たすことです。誰にも氣づかれなくても、相手のニーズを満たせればそれでいいのです。

権威を目的としてしまうのは、自分のエゴのためになっている、人が「虎の威を借る狐」に嫌悪感を抱くのは、こうした理由でもあるでしょう。

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第1回 自尊感情とは何か。何故大事か
第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
第3回 「何が嫌だったか」を自分に質問する。目的語を補う
第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
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    生きづらい貴方へ

    自尊感情(self-esteem)とは「かけがえのなさ」。そのままの自分で、かけがえがないと思えてこそ、自分も他人も大切にできます。自尊感情を高め、人と比べない、自分にダメ出ししない、依存も支配も執着も、しない、させない、されない自分に。