非常に多い親との葛藤とのご相談
当Pradoのご相談の中で、群を抜いて多いのが「親との葛藤」に関わることです。
当初は、別のテーマ(うつ状態や、職場の人間関係など)を持って来られる場合も少なくありません。
しかしセッションが進むにつれて、親、特に母親との葛藤がテーマになることが大変多いです。
潜在意識は「扱いやすい」事例から扱うので、こうした順番になるのはごく自然です。
比較的扱いやすい事例を通して、自尊感情を高め、向き合う準備が出来たところで、クライアント様の潜在意識が「いよいよこれを乗り越えたら、もっと生きやすくなるよ」とテーマを上げてくるのでしょう。
それほど、親との葛藤は根深いのです。
親を受け入れるか、関わりを絶つかは自分を大切にした「結果」
クライアント様の置かれている状況は全て異なります。
ですので、十把一絡げに「親を許すべきです!受け入れるべきです!」などとこちらから申し上げることはありません。現実的な心身の安全にかかわる事例も少なくないからです。
当初は「親との関わりを絶ちたい」と思って来られたクライアント様でも、最終的に自ら、親を受け入れる選択をされる方もいらっしゃいます。
また「一切の関わりを絶つ」選択をされる方もおられます。
私がどのクライアント様に対しても取り組むのは、「ご自分の辛かった感情を受け止め、自分で自分を大切にする術を得ること」即ち自尊感情を高めることです。
これが出来るようになった「結果」、クライアント様の潜在意識が、親を受け入れた方が自分を大切にできるのか、関わりを絶った方が自分を大切にできるのかを選んでくれます。
「内面化」する親の言動
過酷な状況を耐え抜き、生き抜いてくれた、幼く小さかった自分、その自分があればこそ今の大人になった自分がいます。自棄になってぐれたり、人の道を外れるような迷惑をかけたりせず、真面目に生きて来た方がほとんどです。
大人になった今でも苦しい思いが止まないのは、この小さな自分がまだ潜在意識の中で「この辛さをわかって!!!」と訴えているからです。
親、特に母親の言動は、子供の心に「内面化」します。内面化した親の言動は、その子供の自尊感情を大きく左右します。「自分はそのままで愛され、認められている」もしくは「○○でないと、自分は愛されない、認められない」「○○な自分は、お母さんが喜ばない。だから本当は○○したくても、それはしてはいけない」など。
後者の積み重ねが、自分の本音を押し殺し、「自分がどうしたいかわからない」「周囲の評価評判に振り回されてしまう」といった生きづらさを引き起こします。
親の巧妙な支配に成人後も苦しむ子供
ほぼすべての家庭で、親のエゴによって子供が傷ついてしまいます。全くそれが起きない家庭も想像しづらいものです。しかしこれも、親の自尊感情の有無によって、相当大きく左右します。自尊感情とは品位の高さとも関係があります。「子供を自分のエゴのはけ口にするなんて、自分が恥ずかしい。耐えられない」これが品位です。この品位は、良心に支えられていればこそです。
子供を含めた他人を「利用価値があるか、或いは脅威か」という枠組みでしか捉えられない人は、そう少なくありません。一見真っ当な社会人に見えても。その人達がルールや礼儀を守るのは、相手を思いやってのことではなく、「社会通念上そうするもの」という思い込みや、「それをしなければ自分が悪く思われる。損をするから」という打算が動機だったりします。しかし、自分を決して裏切らず、一途に愛してくれる子供、自分に依存しなければ生きていけない子供に対しては、「ここで自分が悪く思われたら損をする」という打算が働きません。だからこそ、本性がむき出しになりやすいです。
また、子供が危険を察知して自分から逃れようとすると、途端に甘い顔を見せたり、心配している風や、泣いて後悔する風を装って、子供を繋ぎとめようとする親も大変多いです。これも当然、自分の支配欲であり、エゴでしかありません。
「自分は良い親に無条件に愛されて育った」そう願わない子供はいないでしょう。だからこそ、親がどんなに理不尽なことをしても、子供は健気にも親をかばいます。しかしこれは、現実をそのまま認めているわけではありません。「自分は良い親に無条件に愛されて育った」その物語が欲しいがために、現実の方をゆがめて認識してしまう、目に見えない悲劇が起きてしまいます。成人後、時間がかかってもこの認知のゆがみを正して行かないと、生きづらさはなくなりません。
その認知のゆがみを正す過程で、怒りや、憎しみ、恨みつらみが噴き出すのは、癒しの一過程です。自尊感情が著しく下がると、どんなに自分を蔑ろにされても氣づけない、怒ることすらできなくなります。
大事なことは、認知のゆがみを取った後、親への失望を抱えて生きる力を得て、親や他の人からも支配されたり、操作されたりしない自分になることです。一生憎しみや恨みを「噴出させ続けて」生きるのも、また健全で幸福な人生とは言い難いです。
イメージの中で、「親の体の中に入ってみて気づく」こととは
セッションでは必要に応じて、「許しがたい相手の体の中に入ってみる」イメージを使ったワークをすることがあります。
これはクライアント様が充分準備が整い、またセラピストのガイドがあった上で行います。いつでもできるわけではありません。
イメージの中で親の体の中に入ってみて気づくことは、幼かった自分にとっては恐怖の対象だったけれど、実際には「恐れる相手ではなかった」ことがほとんどです。親のがらんどうの内面や、親自身が恐れに満ちていればこそ、周囲を威嚇せずにはいられなかった、などがわかります。
これは頭でわかるのではなく、心で実感することが重要です。そのためにワークをします。
「弱い犬ほどよく吠える」という諺があります。しかし子供の自分に、それがわかるはずもありません。
大人になった後、セラピストという第三者の補助を得ながら見方が広がると、気持ちは少しずつでも楽になっていきます。
子供が親の死をどう受け止めたかが、親の人生の成績表
また、今はまだ親が死んではいないけれど、「親の葬式に出たくない」と人知れず悩む方もおられます。実際には、そういう方ほど「他人様に迷惑を掛けられないから」と親の葬式を出すものですが、「周囲は慰めてくれたけれど、自分は涙も出なかった」。これも偽らざる心情です。
「棺蓋(おお)いて事定まる」ということわざがあります。人の評価は、棺桶の蓋が閉まった後に定まるものだ、という意味です。
子供が親の死をどう受け止めたかが、「愛を遂行したか、エゴが愛を上回っていたか」の子から親への人生の成績表です。
自分の親が「エゴが愛を上回る人生だった」と認めるのは、子供としてこんなに情けないことはないでしょう。ですが、現実をゆがめたままで、本当は親の「言いなり良い子ちゃん」だったのに、「自分は良い親に愛されて育った」と自分をごまかしたままよりかはずっといいのです。自分をごまかすのは自己虐待であり、それも結局はエゴだからです。
自尊感情の低下とは自己虐待の結果自尊感情(self-esteem)とは「あるがままの自分を大事にする」ということです。これは自己卑下や傲慢とは180度違う態度です。自尊感情を高めることが、誰にとってもたやすければ、人は自分[…]
自分は騙されていたと認めるのは辛い作業ですが、「騙されたままでいるよりかはずっと良かった」これが自尊感情の高い心のありようなのです。