True Self(真の自己)と腹側迷走神経の関連性
前回の記事では、True Self(真の自己)を生きることについてまとめました。
心の内側から自然に湧き上がる喜び・True SelfとはTrue Self(真の自己)とは、英国の精神科医・小児科医のドナルド・ウィニコットが提唱した概念です。[blogcard url=https://ja.wikiped[…]
では、具体的に大人の私たちはどのようにTrue Selfを生きることができるでしょうか・・?私たち大人は、子供のようには、いつでも無邪氣には振舞えません。様々な制約、しがらみ、これまでの経緯等々に縛られやすいのが大人の社会です。
True Selfを無理なく生きているとは、副交感神経の中でも、腹側迷走神経がホームベースになっている状態でもあります。
自律神経は交感神経(活動・戦うか/逃げるか)と副交感神経(休息・リラックス)の二つがありますが、副交感神経の中でも、腹側迷走神経と背側迷走神経に更にまた別れます。
- 腹側迷走神経:安全・安心・つながり・自然な喜び
- 交感神経:活動・覚醒・警戒・「逃げるか/戦うか」
- 背側迷走神経:シャットダウン・解離・無力感・凍りつき(フリーズ)・「死んだような目」
腹側迷走神経が良い、交感神経や背側迷走神経が悪い、ということではありません。腹側迷走神経がホームベースとなり、必要な時に交感神経や、背側迷走神経が使え、また腹側迷走神経に戻って来れる。この行き来がスムーズであることが、ポリヴェーガル理論では望ましいとされています。
頭での整理・納得だけでは元に戻りやすい理由
ところで心理セラピーのセッションでは、クライアント様との対話を通じ、クライアント様が抱えている現状や感情の整理を多く行います。
悶々として堂々巡りになりやすい思いを、対話によって言語化し、見方を広げたり、違う角度から考えられたりすると、考えや感情が整理され、すっきりする、多くの方が自然に経験されていることでもあるでしょう。
ですが、その場で頭では納得できても、身体、つまり行動がついていかないことはやはり起きます。それは主には「頭ではわかっていても、体の神経系が安全だと感じていない」ためなのです。例えるなら「カーナビに目的地とルートは入力されているけれど、肝心の車体が動かない」状態です。
誰にでも起きうることですが、中でも、生育環境が安全だと感じられなかった人ほど、「頭でわかっても、体は警戒ORシャットダウンモードのまま」になっていることがとても多いです。そしてそれは、自分では中々氣づきにくいことなのです。
多くのクライアント様との取り組みを通じ、言語化の整理だけでなく、身体が「安全だ」と感じる取り組みが、両輪で必要だと強く思うようになった所以です。
脳が完成する前に、身体の神経系に「この世は安全か/危険か」が刻み込まれてしまう
さて、人間の脳の完成は大変遅く、脳の前の方、前頭前野が完成するのは25~30歳頃と言われています。前頭前野は思考や判断など、成熟した高度な機能を司ります。ほとんどの職場で、最初の管理職になるのは大体30歳頃なのは、脳の発達の面から見ても理にかなったことなのです。
一方で、私たち人間は誕生直後から、「ここは安全か、安全でないか」を身体の神経系で感知し、そして脳の扁桃体に指令を送って安全なら安らぐ、安全でなければ泣く、ぐずるという反応で表現します。
そして泣いたりぐずったりしたときに、「ここは安全ではない」と発した信号を、養育者(主に母親)に優しく、温かく受け止めてもらい、世話をしてもらえると、「安全でないと感じても、私は大丈夫」「安全でないと感じることはあっても、世界は概ね安全」と学習していきます。即ち、安全基地を少しずつ自分の身体に獲得していきます。
見過ごされやすいのは、おむつを替えてもらったり、母乳やミルクを与えてもらったりの身体的な世話はしてもらえる。しかし、その時に感情的なつながり(母親の笑顔や優しい声、赤ちゃんのしぐさをそのまま鏡映しにするなど)が乏しいと、感情的、つまり神経的には「ここは安全ではない」のままになってしまうことです。
感情的ネグレクトや、ナルシシストの親は、この感情的な共感がほぼ欠けています。大抵の場合、身体的な養育はきちんとするので、子供の方も、成人後も非常に長い間、氣づくのに遅れやすいのです。40代、50代、60代で漸く氣づく、或いは死ぬまで氣づけないままのことも、全く珍しくありません。
生育歴が過酷だった人ほど交感神経や背側迷走神経に頼り勝ち
幼少期、親からのあからさまな暴力や暴言はなかったとしても、「今日の遠足、どうだった?楽しかった?」と訊かれない、家の中で挨拶がない、「ただいま」と声をかけた時に温かく迎えてもらえない、家の雰囲氣が何となく重く暗い。「嫌なことを言われたりされた」記憶は残りますが、不作為による愛の不在はエピソード記憶としては残りづらく、しかし、身体の神経系に「ここは安全ではない」と氣づかぬうちに、慢性的に刻み込まれてしまいます。
そして不作為による愛の不在が積み重なると、「自分の存在が薄められている」「私はここにいて良いのか」の存在抹消の恐怖、引いては「私は欠陥品だ」「私は欠けた丸だ」という、根拠のない核心的羞恥が、心と体の奥深くに刻み込まれます。これが強迫的な過剰な頑張りや、逆に「どうせ何をやっても無駄」の学習的無力感になりやすいのです。
自分ではよくわからない場合は、
- 子供の頃に「お母さん、大好き!」「お母さんのバカ!」の両方が言えたか。
- 家族の記憶が、事実としての記憶(遊園地に連れて行ってもらった、誕生日やクリスマスにケーキやプレゼントをもらったなど)にはなっても、懐かしい感情が伴う思い出になっているか。
などが、振り返りの目安となるでしょう。
いずれも、身体が「ここは安全だ」と感じていないと、「お母さん、大好き!」も「お母さんのバカ!」も言えなくなります。
また、事実としての記憶には残っても、「ああ、懐かしいな」の温かい感情を伴う記憶に残らなくなります。
身体の神経系は、脳よりも正直です。
以上を踏まえた、大雑把な区分けは以下の通りです。
- 「身体が安全だと感じている」⇒腹側迷走神経が活性化されている。
- 「身体が安全だと感じていない」⇒交感神経や背側迷走神経に頼りがちになっている。
「そのままの自分で恐れなく、安心とつながりを感じ、生き生きと自分を表現できる」True Selfは、身体の神経系が安全だと感じていることが基本であり、また永遠の課題でもある、そのように私は考えています。
腹側迷走神経の活性化方法と起きる変化
腹側迷走の活性化は、誰かにできて、誰かにはできないものではありません。但し、非常に息の長い取り組みが必要になります。特に最初の頃は「これでいいのかな?」と不安になっても不思議ではありません。
日常ですぐ取り組める腹側迷走の活性化方法
〇地に足をつける「グラウンディング」。足裏や、座っている時はお尻などの接地面に意識を向け、重心が下に下がるのを意識する。
〇長い呼気。「ハッ」と息を吸うのは交感神経、「はあー」と長く息を吐くのは腹側迷走神経です。その時、周囲に人がいない時は声に出して「はあー」「ふうー」と3~5秒程度長く息を吐くのもお勧めです。
〇グラウンディングや呼気を合わせて、胸やみぞおちに掌を当てる。胸やみぞおちは、神経細胞が集まっている箇所です。そして「今は安全」と自分に言ってあげると、より腹側迷走神経が活性化されやすくなります。
〇散歩。特に自然の中の散歩がお勧めです。五感が刺激されますし、自然の緑は「ここは安全」の信号を発しています。歩行はBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促します。BDNFは「脳の肥料」とも呼ばれています。また精神安定作用のあるセロトニンや、幸福感をもたらすエンドルフィンといった神経伝達物質が分泌されます。
〇肩甲骨回し。横隔膜が柔軟になり、呼吸が深くなる。猫背・巻き肩などの姿勢の改善。猫背・巻き肩は、「身構えている」防御の交感神経・背側迷走の状態を身体的に固定してしまいます。肩甲骨回しはそれをほどく効果が期待できます。
肩甲骨が固まると姿勢が崩れ、代謝が落ち、頭痛まで引き起こします。毎日肩甲骨を100回ぐるぐるとまわすだけで、脂肪燃焼・血…
腹側迷走神経が活性化すると起きる主な変化
〇首、肩、背中のこわばりが解け、下に「どーっと下がる」感じ。意識しなくてもグラウンディングする。
〇呼吸が自然に深くなる。
〇声に柔らかさか出る。表情が緩み、目が生き生きと、優しくなる。
〇感情を恐れなくなる。怒りや恨み、憎しみや許し難さを「そのまま抱えられる」。
最後の「感情を恐れなくなる」が、True Selfを生きるために大変重要です。怒らないのではない、憎んだり恨んだりしないのではない。許し難さも残る。「この耐え難い感情に私が耐えずに済むように、あなたが変わって」でもなく、「こんなことで怒る私が心が狭い」の自己否定でもない。
「これが私の人生に起きたことだ」とそのまま抱える。それが無邪氣な子供のTrue Selfとは異なる、大人のTrue Selfを生きることだと私は考えています。

