失敗を引き起こす脳の7つの原因/単純化する脳と複雑な現実

原因⑤「今できる小さなこと」細分化の不徹底

木を見て森を見ず/森を見て木を見ず

「木を見て森を見ず」という言葉があります。細部に気を取られて全体像を見失うこと、手段だけに意識が向きすぎて、そもそもの目的や目標を見失うことです。「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」で振り回されている状態です。

逆に「森を見て木を見ず」も、実はよく起きています。

すぐに行動に移せない人は、物事を大きな塊で捉えている傾向があります。掃除や片付けが上手な人は、口をそろえて「目についた時に、さっとやる」と言っています。部屋の片づけも、「出したペンをペン立てに戻す」「玄関の靴を揃え、履かない靴は靴箱にしまう」など、小さなことの積み重ねです。

失敗は実は、小さなことの見逃しに端を発していることがとても多いです。ねじ一本、パッキンひとつの不備を早く気づいて取り替えていれば、大事に至らずにすんだ、これは物に限らず人間関係でも同じです。決定的な亀裂が入る以前に、小さなサインはあちこちで出ているものです。

小さな「ねじ一本、パッキンひとつ」を見逃さないためにも、これも常日頃から「塊を小さくする」細分化の習慣が必要です。細分化して行動に移す、細分化したことが積みあがっていくと部屋が片付く、どんな大きなことも、小さなことの積み重ねです。大事を為す人は小事を決して軽んじません。

しかしこれも、「脳は大まかにざっくりと、単純化したがる」特性のために、そして「小さなことの大切さがわからない」間は、どんな人もかなり意識的にやらないと身につかないようです。

原因⑥「これをしたら/しなかったら」どうなるかの結果を考えていない

恒常性(ホメオタシス)と現状維持バイアス

生物に備わっている恒常性(ホメオタシス)と呼ばれるものがあります。生命と肉体を守るために、体温や血圧、脈拍、免疫や消化機能などを、「外部からの刺激にかかわらず」一定に保とうとする働きです。暑いと汗をかいたり、寒いと身震いするのも、体温を一定に保とうとする恒常性のためです。

生きていくために不可欠な作用ですが、物事の捉え方にもこの恒常性が働くと、今度は「現状維持バイアス」になってしまいます。私たちは何となく「今日の続きで明日がある」かのように捉えがちです。「明朝目が覚めたら、世界が全く違っているだろう」とは考えません。しかしこれは、何の根拠もないことです。1995年の阪神大震災では、「朝起きたら世界が変わっていた」のです。

幸福にしろ不幸にしろ「慣れているもの」は、当たり前ですがなじみが良いです。不慣れなものは、これも当たり前ですが慣れるまではストレスがかかります。新生活にワクワクする、楽しいことのようですが、この「ワクワク」も実はストレスです。

要は「現状が維持されていると楽」なので、「これをしたら/しなかったらどうなるか」の結果を考えることを避け、何の根拠もなく「現状が維持されるかのような」幻想を抱いてしまいがちなのです。

結果は短期・中長期両方の視点で

人間の脳は元々、結果を考えることが苦手です。ですから、「タイムセールにて赤札から○%OFF!」「このCM終了から30分以内にお電話いただくと、☆☆をプレゼント!」に「これを買ったらどうなるか」を考えずに飛びついてしまう、広告業者はこの脳の特性を知り抜いています。

また「べき・ねば」に縛られていると、「今はしなくてもいいこと」を「やらなくちゃ!」と頑張ってしまい、自分から疲れてしまいかねません。そして「本当に大切なこと(家族に笑顔で接する、など)」がおざなりになってしまいます。

例えば、仕事から帰ってから洗濯機を回したはいいものの、疲れ果てて干す気力がない、ということも起きるでしょう。この時「今干さなかったらどうなるか」の結果を考えてみると、適切な判断が下せます。翌朝干してもどうと言うことはない、或いは、子供の体操服だけは這ってでも干す、それでいいこともたくさんあります。

ただし、原因③の「準備」「予防」に関することは要注意です。今日やらなくても、急には困りはしないでしょうが、長い目で見ると準備不足が命取りになります。

私の知り合いで、学者になることを目指していた大学院生の女性は、アルバイトや飲み会でどんなに遅く帰ってきても、自分の研究ノートを開いて見るだけでもする、と言っていました。これも「最低限」を「細分化」して「準備」していたのでしょう。

「やらなくてもどうということはないこと」と、「今はどうということはないが、中長期的に考えると、やはりやった方が良いこと」の区別をつけることが肝要です。

コンコルドの誤謬

人間の心理に「コンコルドの誤謬」、別名埋没費用効果(sunk cost effect)と呼ばれるものがあります。

ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資がやめられない状態を指す。超音速旅客機コンコルドの商業的失敗を由来とする。
Wikipedia より 

「こんなにやったのに!」
「今までのことは何だったんだ!」

とそれまでに投じたリソースが、損失につながるとわかってるにもかかわらず、というよりも、損失につながると認めたくないがために、その対象に執着してしまうようなことです。

相手の気持ちがもう冷めているのに、それまでに注いだ愛情や、時間や労力が報われないことが耐えきれず、相手を本当に好きかどうかはどこかに吹っ飛んで、何とか振り向いてもらおうと執着する、愛することではなく執着が目的にすり変わるのも、コンコルドの誤謬です。

太平洋戦争が中々終結できなかったのも、このコンコルドの誤謬によると言えるでしょう。

頑張り屋ほど、この罠にはまりやすいです。コンコルドの誤謬はどんな人にも起きる、自分も例外ではないという自覚を持つとともに、「これを続けたらどうなるか」の結果を考える、そして苦い決断を下す勇気が、結果的に自分の身を守ります。

原因⑦ 学習棄却 Unlearning/成功体験を棄てる勇気

脳の学習において、曲者なのは失敗体験よりも成功体験の方です。勿論、適宜成功体験を積み、自信をつけることも大切です。

この際、ただ「これをやりさえすれば上手くいく」ではなく、成功体験の意義目的(「何故それがうまくいったのか」「その成功体験の意義は何か」)に昇華することが重要です。意義目的に昇華すると、応用が利くようになります。

しかし一方で、失敗した時の反省はしたとしても、成功した時は「良かった、良かった」のやりっぱなしになり、中々振り返りをしないことが多いかもしれません。

そして意義目的に昇華し、他のやり方でも応用が利くように引き出しを増やしておかないと、「過去の成功体験にしがみつく」ことが起きてしまいます。いわゆる老害と呼ばれるものは、過去の成功体験に縛られ、状況の変化を受け入れていないことから起きています。

学習棄却 Unlearningという言葉は、あまり耳慣れないかもしれません。パソコンやスマホのアプリをアンインストールするように、一旦学習したことを捨て去ることです。

ただ人間の脳はパソコンやスマホと違って、不合理な感情の影響を受けるので、アンインストールするように機械的にはアンラーニングができません。要は面子や虚栄心が邪魔をしてしまうのです。

学習棄却には現実に向き合う客観性と勇気と、そして「自分は自分でいい」と心から思える自己受容の三つが必要です。成功/失敗と、自分自身の価値は別物と切り離せないと、過去の成功体験にしがみついてしまいます。自分を否定されるかのように勘違いしてしまうからです。

成功したから自分は価値があるわけでも、失敗したから価値がなくなるわけでもありません。単に、その時下した決断と行動が、状況に合致したかしなかったかというだけのことです。

これは他人をも、今時風に「勝ち組/負け組」でレッテル貼りしないことでもあります。自分や他人を「勝ち組/負け組」のレッテル貼りをしていると、それ以上考えようとはしないので、学習棄却はできません。

失敗の原因は的確な状況判断を下せないこと

状況判断力とは人間の脳の本性に逆らう力

失敗の原因を7つの観点で取り上げてきましたが、集約すると「現実に即した、的確な状況判断を下せないこと」と言ってもよいでしょう。的確な状況判断を下し、その通りに行動すれば、多くの失敗が防げる筈です。

しかしこれまで見てきたとおり、状況判断はいずれも、人間の脳の本性に逆らうものです。失敗の7つの原因に挙げた要素は、人間である以上誰にでも起きます。知能の高い低いに関係なく、状況判断力を養い続けるのは不断の努力が必要であり、どんな人にとっても決してたやすくはありません。

私が「失敗は『するもの』」と考える所以です。

どんな人も愚者と賢者のグラデーションの中に

「状況判断が出来ない人間を莫迦(ばか)と言う」立川談志

「立川談志の名言・格言・罵詈雑言」辺見伝吉 久田ひさ 牧野出版より

談志の言に沿って言えば、人間は皆莫迦(ばか)ですし、そしてまた、この7つの原因を脱する努力は、どんな人も「やろうとすればできる、でもやらなければできない」類いのものです。意識的な努力次第で、誰でも賢者への道を歩むこともできるのです。

これを裏から言えば「だってどうせ、私は馬鹿だから、ダメだから」「あの人は特別だから、私と違って頭がいいから」の言い訳はできない、ということです。

どんな人も愚者と賢者のグラデーションの中に存在し、そしてこのグラデーションの中を、絶えず行きつ戻りつしています。誰かを見下したり、或いは自己卑下して現実逃避する間に、自分自身が愚者のグラデーションの方へ寄ってしまいます。

私たちの判断と選択は千年後の子孫に影響が及ぶ

ところで、歴史を学ぶことの面白さは、先祖が下した判断と選択が、否が応でも今の私たちの生活に影響を及ぼしていることを、知ることでもあります。

千年前の先祖が下した判断と選択が、今の私たちに影響が及んでいるのなら、今の私たちが下す判断と選択は、百年後、三百年後、千年後の子孫に影響が及ぶということです。為政者や権力者だけではなく、無名の市井の人々の選択も影響を及ぼします。

判断力を磨くのは、自分が失敗して恥をかきたくないとか、或いは人様に迷惑をかけないためだけでは決してありません。

千年後の子孫に、顔向けできないことはしない。そのためにも、判断力を磨くという誰にとっても難しい課題から逃げない責務が、大人にはあると私は考えています。

 

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生きづらい貴方へ

自尊感情(self-esteem)とは「かけがえのなさ」。そのままの自分で、かけがえがないと思えてこそ、自分も他人も大切にできます。自尊感情を高め、人と比べない、自分にダメ出ししない、依存も支配も執着も、しない、させない、されない自分に。