居場所をなくすYouメッセージ・互いを認め合うIメッセージ

相手に圧迫感を与えず、かつ毅然とした態度を保つ自己主張とは

「思ったことが言えない」「つい相手に迎合してしまう」「イヤだと言えずにつけこまれてしまう」こうしたコミュニケーションの悩みを抱えている人は少なくないでしょう。

その悩みを解消するには、「自分は自分で良い」という自尊感情を高めつつ、健全な自己主張のための実際的なスキルを身につける、その両方が必要になります。

健全な自己主張を子供のころから特に家庭の中で実践できていないと、自己主張=我を通す、と知らず知らずのうちにも思い込みかねません。いわゆるいい子で育ってきた人、反抗期らしい反抗期がなかった人は要注意です。

優れたコミュニケーターは、相手を尊重し、圧迫感を感じさせず、なおかつ毅然とした態度で自分の考えを伝えています。

ただしそれには練習が必要で、特に最初のうちは意識的に反復練習をすることが大切です。この優れたコミュニケーターがやっているのが「Iメッセージ」です。

Youメッセージの連続だと「その場から逃げたくなる」

相手に自分の希望・要望を伝えようとするとき、えてしてやりがちなのが「Youメッセージ」です。

「早くしなさい!」「宿題は!まだやってないの!?」「いつまでゲームしてるの!?」「これでいいと思ってるの!?」「何で遅れるの!?」「電話くらいしてよ!」

・・・これらの主語はすべて「You」「あなた」です。日本語の会話では主語は省かれることが多いので、あまり意識出来ていないかもしれません。

これを言われ続けて、嬉しい気持ちになる人はいません。その場にいるのが嫌になってしまうでしょう。

しかし本当は、これらのことは皆、「自分が望んでいること」です。

「早くしてほしい」「宿題をやってほしい」「ゲームをやめてほしい」「反省してほしい」「遅刻しないでほしい」「電話をしてほしい」のはすべて「自分」です。

自分の要望なのに、あたかも相手の「せい」になってしまっている、このことに相手は反発したり、心を閉ざしてしまったりします。
このYouメッセージは、フラストレーションが溜まったり、余裕がなければないほど、誰でもやってしまうものです。「私はやりません!」ではなく、「うっかりするとやってしまう」前提に立つことが肝要です。

家庭の中で子供が自分の居場所が感じられなくなるのは、必ずしも親が子供を愛していないためとは限りません。

この「Youメッセージ」によって子供が「愛されている」「自分はここにいて良い」とは感じられなくなってしまう、これはとても残念なことです。

家庭のみならず、職場も同じです。
勿論職場は、自分の居場所づくりのためのものではありませんが、それでも居心地の悪い職場で能力は発揮できません。

相手の心の自由を認めつつ、自分も主張するIメッセージ

Iメッセージとは、「私がこう感じている」ことを伝えるものです。そしてその背景には「自分も相手も、何をどう感じるかは自由であり、尊重されるべきもの」という姿勢があります、

Youメッセージは相手に有無を言わさず「こうしろ」と命令することなので、そこに相手の自由を認める姿勢はありません。

Iメッセージは次の3つの要素で成り立っています。

「~が起きた時」

これは客観的な事実のみを伝えます。主観を入れないことが大切です。
Youメッセージでやりがちな「いつも」「この間も」「しょっちゅう」は(どんなに言いたくなっても、ここはぐっとこらえて)使いません。これを言うと「いつもじゃないのに!」と相手が反発し、コミュニケーションが途絶えてしまいます。

<例>

×「ドアを叩きつけて閉めた」   ○「ドアを音を立てて閉めた」
×「いつもすごく人を待たせる」  ○「今朝、15分遅れた」
×「またお弁当箱を朝になって出す」  ○「今朝、お弁当箱を出した」

×の方は、それだけで相手が「責められている」と感じてしまいます。
○の方は、主観的な判断を入れない客観的事実なので、これに「良い・悪い」はありません。

の具体的な影響

これは「私」に対する影響です。これも客観的な事実を伝えます。「他の人が」「みんなが」は、相手が「本当にそうか?」と疑問を抱きます。
またこの段階では「困ってる」「迷惑だ」は伝えません。相手に「責められている」と感じさせてしまいかねないからです。
相手が、「なるほど、そういうことが起こるんだな」と納得するための段階です。

<例>

「ドアを音を立てて閉めた時」
×「みんな驚いた」  ○「私はドキッとした」

「今朝、15分遅れた時」
×「他の人に迷惑をかけた」  ○「私は『どうしたんだろう』と思った」

「今朝、お弁当箱を出した時」
×「私はすごく困る」  ○「臭いを取るのに時間がかかった」

「私」がどう感じているか

<例>

「ドアを音を立てて閉めた時、私はドキッとして、落ち着かなくなった
「今朝、15分遅れた時、私は『どうしたんだろう』と思って、心配した
「今朝、お弁当箱を出した時、臭いを取るのに時間がかかって、困った

特にの段階で、相手が「うん、うん」と同意できるかが重要ポイントです。

上の文章は典型的なIメッセージの例題なので、ぎこちなく感じるかもしれません。
自然な会話としては

「ドアを音を立てて閉めると、ドキッとして落ち着かないの」
「今朝、15分遅れた時、『どうしたんだろう』と心配したわ」
「今朝、お弁当箱を出した時、中々臭いが取れなくて、困ったの」

などになります。

Youメッセージだと

「あんたはいつもドアを叩きつけて閉める!」
「いっつも人を待たせるのね!」
「何で朝になってお弁当箱を出すの!」

になってしまいます。

Iメッセージは、まずは練習が必要です。客観的な事柄だけをしかも簡潔に伝えるのは、頭の体操が要るとすぐに気づくでしょう。

最初はできるだけ小さな、日常的な事柄を題材に、紙に書き出すとわかりやすいです(トイレの便座が上げっぱなし、ゴミ出しを忘れる、脱いだ服を裏返して洗濯かごに入れてほしい、洗面台の水滴を拭いてほしい、などなど)。

相手の抵抗を減らすリフレクティブ・リスニング(反映的傾聴)

IメッセージはYouメッセージよりも、相手の抵抗がずっと少なくはなりますが、それでも相手に行動を変えてもらうことが目的ですから、抵抗が起きることがあります。人は誰かに言われて自分の行動を変えるのは、どんな小さなことでも面倒くさく感じるので、抵抗が起きて当然です。

その時に一旦、相手の言葉をそのまま受け止めて返すのが、リフレクティブ・リスニング(反映的傾聴)です。

お弁当箱の例だと

「今朝、お弁当箱を出した時、中々臭いが取れなくて、困ったの」
「ごめん、つい忘れちゃうんだ」
「忘れちゃうのね」

この時「何で忘れるの!」だと、またYouメッセージになります。

そしてここでは、相手は自分の行動が迷惑をかけていることを自覚し、謝っていますが、「つい忘れてしまう」ことに困惑もしています。
それをそのまま受け止めることにより、「同じ立場に立って解決しよう」という土台が出来ます。

ここで

「忘れずに出すために、どんなことが出来るかなあ?何か工夫できることはないかしら?」

と投げかけると、相手もただ責められているとは感じず、共に解決しようとするメンバーシップを感じることが出来るでしょう。

健全なコミュニケーションの背景・「心の中で感じることは全てOK」

このIメッセージとリフレクティブ・リスニング(反映的傾聴)は、コミュニケーションスキルの基本的なものです。

そしてこれは、基本でありながら大変奥が深いものです。

何故ならどれくらい使いこなせるかは、「心の中で感じることは、あなたも、私も、全てOKだ」ということの、理解の深さに比例するからです。

ここで大切なのは「感じていること」と判断選択をわけることです。「ああ、今日は会社に行きたくないなあ」と思うのは理由あってのことですが、本当に行かなくて良いわけではありません。「政治には興味がない」と感じているのは、ただそうだ、ということですが、それで良いかどうかは別問題です。「責任を取りたくない、面倒、誰かに押し付けて知らん顔をしたい」も、褒められたことではありませんが、その人が今そう感じている、ということです。だからと言って、大人はそうして良いわけではありません。その区別を付けて行きます。

自分や相手の心の中の、怒りや、不平不満や、苛立ち等を「感じるべきではない」「目をそらしたい。聞きたくない」、即ちいつも”ポジティブな”感情だけを感じる”べきだ”、をやってしまうと、Iメッセージで率直に伝えたり、リフレクティブ・リスニングで受け止めたりはできません。間違ったポジティブ教は、そのままのその人を追い詰めてしまいます。

弊社の心理セラピーでは、いきなりIメッセージの練習をするのではなく、まずは「自分の中の、どんな感情にもOKを出し、受け止める」習慣が身に着いてから、取り組んで頂いてます。

この意義を心で納得されたクライアント様は、Iメッセージの本質を理解し、使いこなせるようになっていきます。

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そしてまた、本質を理解してIメッセージやリフレクティブ・リスニングを使うことで、「あなたは何を感じても良い」と言外に伝えられるようになっていきます。

コミュニケーションスキルは、形だけお勉強し、練習しても意味はありません。
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第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
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