やりたいことは「嫌だけれど必要なこと」をやれる人に現れる

「欲しいもの」がなくても「必要なもの」はなくならない

「自分がどうしたいかわからない」「何が欲しいのかわからない」
・・・特に若い世代の方は生まれた時から、「用意され、与えられ過ぎている」状況にあります。

これは無論彼らのせいではありませんが、この与えられ過ぎた「空腹を知らない王様の不幸」が、今の日本の不幸なのかもしれません。

勿論中々見えにくい貧困や格差の問題はありますし、これを良しとするわけでは決してありません。しかし「本当にこれは嫌だ、ここから何としてでも抜け出したい」というのは、一方では大きなモチベーションになります。

「どうしたいかわからない、でも満足はしていない」という欲求不満の方が、案外厄介かもしれません。

どんな自分でもOKなのだ、という自尊感情は、ただでは手に入りません。「自分の意志でこれを選んだ」実感の積み上げが必須です。与えられることに慣れてしまうと、「自分で選ぶ」経験値を積めません。

しかし人間、欲しいものがなかったとしても、必要なものがなくなることはありません。なぜなら人の一生は、成長と学びの連続だからです。自尊感情が低いまま、必要なことに直面すると、及び腰になり、些細なことでめげやすくなってしまいます。

やりたいことが見つからない時は、人が嫌がる仕事を見返りを求めず喜んでやること

今もし「やりたいことがわからない、どうしたいかがわからない、でも何か不安だし自信が持てないし、毎日が楽しくない」のなら、身の回りの「人が嫌がる仕事」を見返りを求めず、喜んでやることをお勧めします。SNSなどでアピールしては意味がありません。見返りを求めないことが、後述する勇気を育てるからです。

簡単に言えば「手が汚れる仕事」です。
掃除、ゴミ捨て、倉庫整理、給湯室の湯飲み茶わんやふきんの漂白、中々成り手のいない朝礼の司会、マンションの自治会、歓送迎会の幹事など「中々やりたがらないけれど、誰かがそれをしなければ、世の中が成り立たない仕事」を自分から探すのです。

家の仕事なら、不用品の整理、ベランダの掃除や庭の草むしり、家の前の道を掃いたり、近所のポイ捨てされているゴミを拾ったり、手が汚れるものであればあるほど望ましいです。小さなことで構いません。

「誰も好き好んではやらないこと」を人から言われたからではなく、自分からやる、これが小さな勇気の積み重ねになります。

そしてこれらの仕事の良いところは「やればやっただけの成果が自分でわかる」ことです。「汚かったところがきれいになった」のは誰に気づかれなくても、自分がわかります。

また「誰もがやりたがらない仕事」であれば、少々上手く行かなかったところで、それを誹謗中傷する方がお門違いになります。
その時、周囲の人が心から「ありがとう」と言ってくれたり、「手伝おうか?」と申し出てくれるのか、或いは自分は「手を汚そうとはしない」のに文句だけは一人前かで、人を見極める訓練もできます。

そしてこれは上述したとおり、「見返りを求めない」ことが大事です。見返りを求めたとたん、それは取引になります。勇気は取引とは最もかけ離れたものです。損得勘定で生きている人は、どんなに強そうに威張って見せても、真の勇気はないのです。そして勇気のない愛はありません。

「誰かが気づこうが気づくまいが、自分は人が嫌がる、しかし必要なことをやり抜いた」という実感が自分の支えになり、これが自分の品位になります。

「与えられ過ぎてしまう」不幸は、知らず知らずのうちに勇気を挫かれることにあります。

勇気は持って生まれた性格や資質とは異なり、後天的に育てていくものです。
それは「嫌だな」「怖いな」と思うことを乗り越えることによってしか、育てることはできません。

逆に言えば、小さくても良いから「嫌だな」と思うことをやってみる、そして「嫌で怖かったけれど、やって良かった」という経験を積み重ねることによって、だれでも勇気を育てられます。

勇気は生きやすさの条件であり、自尊感情の中身のひとつです。

潜在意識は事の大きい小さいがわかりません。これを利用して、小さな事を面倒がらずに積み重ねる、これだけでいいのです。

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欲しいものは必ずしも必要なものではなく

私たちは自分が欲しいものを目標に掲げます。当Pradoの心理セラピーでも、必ずクライアント様自身が望むものは何かを引き出します。
しかし、私たちの人生において、欲しいものと必要なものは異なっていることがあります。

本当は見ず知らずの人とも自分からコミュニケーションを取り、関係を築けるようになることが必要なのに、そこから逃げて「人と関わらなくてすむ」環境が欲しくなる、そのようなことです。

ただ、顕在意識(頭)と潜在意識(心)の通りがよくなればなるほど、自分を大切にし、潜在意識が自分に協力してくれるようになればなるほど、必要なものが欲しくなってきます。

しかし最初からこの状態には、人はなかなかなれません。最初のうちは、欲しいものが天から降ってくるのを口を開けて待っている、これを止めるところから始めます。

「必要なもの」は時に痛みを伴う、その痛みに心を開くこと

私たちにとって必要なものは、時に痛みを伴う失敗や挫折という形で現れます。
本当に必要なものであればあるほど、最初からはわからなかったり、或いはそれに蓋をして見て見ぬふりをしがちです。

テニス漫画の金字塔「エースをねらえ!」(山本鈴美香著)の登場人物の一人お蝶夫人(竜崎麗香)は、美しく強く、誇り高いのですが、物語の当初は少々高慢な印象がありました。
しかし物語が進むにつれ、美しさと誇り高さはそのままに、懐の深い、聡明な大人の女性に変わっていきます。

物語の終盤、宗方コーチがジャッキー・ビント(オーストラリア人の世界ランカー。主人公の岡ひろみとダブルスを組む)に宛てた手紙が引用されます。

岡ひろみは 竜崎麗香が生涯のペアと心に決めていた選手だった
(略)
しかし君という選手が出現した

あのプライド あの気性
さぞ悲しみ動揺したことと思う

が 彼女は黙って身を引いた
そして君に手紙を書き始めた

岡への愛情と 岡の成功を願う祈りに溢れた手紙が 今も君の手元に届いている筈だ

忘れないでほしい
君と岡のペアの陰で泣いたのは 君の妹のジョージィだけではない
竜崎麗香という己に厳しい あれほど賢明な女性の夢も打ち砕かれたのだから

お蝶夫人が欲しかったものは「岡ひろみとダブルスのペアを組む」ことでした。しかし、それはお蝶夫人にとって必要なものではありませんでした。

お蝶夫人は自分の望みが打ち砕かれた時、ジャッキー・ビントを恨むことも、自分を卑下していじけてしまうことも選びませんでした。

彼女は岡への愛情のために黙って身を引き、岡とジャッキーのペアを成功させるべく陰ながら尽力しました。
欲しいものではなく、必要なものに心を開いたのです。
こうやってひとまわりもふたまわりも大きな人間になることを、意識はしていなかったでしょうが、結果的に選びました。

「嫌だけれど必要なこと」をやれる人に「やりたいこと」が現れる

現在の日本には、好きなことややりたいことを早く見つけ、それに打ち込むことが幸せな生き方だ、辛い下積みに辛抱しなくていい、そんな風潮があるようです。

勿論、どうみても心身を壊すような過酷な環境や、下積みと称して単なる便利使いだけをし続けて、「作業=仕事」という誤った教育をしてしまうことは、大きな観点に立てば誰にとっても損失です。仮に目先の利益は得られたとしても。

しかし好きなものだけ、欲しいものだけ得ていても、それは子供が遊び続けているのと同じです。
いえ子供の遊びであっても、上手く行かない悔しさや、少々怖いことを乗り越え続け、彼らは学び、成長していきます。嫌なこと、怖いことからひたすら逃げ続けていては、子供の遊びにすら劣ります。

「あなたどうしたいの?何が好きなの?」と訊かれてわからない時は、「嫌だけれど必要なことに心を開く」「その時は嫌だったけれど、それでしか得られなかった貴重な学びがあったことを思い出す」ことから始めるといいでしょう。

好きなものに打ち込むことは、ルンルンで楽しいことばかりでは決してありません。
どんなに好きなことであっても、それを貫くにはやはり「嫌だけれど必要なこと」、つまり辛い試練が大なり小なりやってきます。

その「好きなこと」にも人格がある、と想像してみましょう。
自分の都合の良いことだけが欲しい、相手は必要としているけれど、自分にとっては面倒くさいことには関わりたくない、そんな虫の良いことを考えている人と、ずっと一緒にいたいと思えるでしょうか・・・?
その「好きなこと」も、恋愛と全く同じで逃げられてしまいます。

すべてのことはその人に準備が整った時に現れます。

逆説的ですが「嫌だけれど必要なことをやる意味」がわかった人に、「好きなこと」「やりたいこと」が現れます。
私たちは欲しいものを手に入れているのではなく、私たちが準備が出来た時に「向こうからやってきている」のです。

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第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
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第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
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