最後に残る悲しみや悔しさをも
魂の成長課題を果たし、対処方法を学び、事実を受け入れられ、気づきを得て自分の世界地図がどんなに拡大しても、事の大きさによっては最後の最後にやはり、悲しみや悔しさや許し難さが残ることもあります。
セラピー・セッションでは見方を変えて不快な反応が起こらない、かつての辛い経験が記憶からなくなりはしないけれど、意識にはのぼらなくなることを多く行います。
それでもなお、全く消えてはしまわない辛さや悲しみもあります。
クライアント様からよく受ける質問に「自尊感情が高くなれば、心穏やかになり、悩まなくなるのですか?」があります。私は正直に「葛藤はむしろ増えますよ」とお答えしています。但し、葛藤を「嫌なもの」としなくなる、建設的な向き合い方ができる、結果的に周囲にまき散らすことはなくなっていく、とも付け加えています。
きれいごとだけでは生きていけない、それも人間
人間はきれいごとだけでは生きていけません。
時には心の中で相手を見下してかろうじて心のバランスを取る、そうしてやっと、生き延びることが出来る、人生の局面にはそんなことも起こりえます。
弊社で大事にしていることは、「相手を見下すな」ではなく、「相手を見下すことで何とか生き延びている自分」に自覚的になり、その自分を受け入れることです。人は「そうもしないと生きていけない」のです。
そして自覚的になればこそ、その自分を外側にまき散らさないようになります。品位とは、心の内も外もおきれいな状態のことではなく、内心のどろどろした自分を、殊に関係のない人様に、まき散らさないことだと思います。
「そうもしないと生きていけない自分」とは、見栄えの良くない自分です。「一分一秒でも早く地獄に落ちろ、二度とこの世に戻ってくるな」と罵倒したい、少し面倒なことは何かと言い訳して先延ばししたい、相手より自分の方が正しいと思いたい、大したことをしていないのに自分は特別だと思いたい、努力が面倒で楽をしたがる自分のことです。
「そうもしないと生きていけない自分」の存在が、私たちに、自分は決して天使でもなければ、マリア様でも観音様でもない、生身の人間なのだということを教えてくれます。
私たちは少々事が上手くいっただけで、自分が立派で特別でおきれいな人物かのように、簡単に思い上がりがちです。自分にダメ出しも実は、この思い上がりの裏返しです。
人からほめられると「そんなことはありません!!」と否定する「自分へのダメ出し」人から何かをほめられると「ありがとうございます、光栄です。励みになります」ではなく「えーっ!そんなことありません!!」と真っ向から否定する人は決して少なくあ[…]
自尊感情は「人間の業の受容」があってこそ
落語家立川談志の遺した言葉に、「落語は人間の業の肯定」があります。業とは、「そうもしないと生きていけない自分」と言っていいでしょう。
談志が「落語は」という主語を付けたのは、落語というフィクションに、自分たちの中にある業を鏡のように映しだす、ということだろうと思います。繰り返しになりますが、自分の業を受容していないから、なかったことにしようとするから、まき散らし、自分や他人を苦しめてしまいます。
そして自分の中の業を受け入れることが、真の自己理解、引いては人間理解につながります。人間観が広がり、豊かになります。そしてまたこれは、「ほれぼれとする完璧な自分でなければ愛せない」のナルシシズムとは正反対であり、勇気が要ります。自分に正直に生きるのは、勇気が要る、この勇気を養い育てるのをサボるから、いい人であろうとし、「人からどう思われるかをコントロールしてくて仕方がない」の悪循環に陥ります。
そしてこれは一種の境地であり、自分と向き合う、時に苦しい作業を経たのちに、いつの間にか到達するものです。「これが私だ」「This is me.」です。
クライアント様が共通して達する境地”This is me. ”弊社のクライアント様のご相談内容や、置かれている状況は千差万別です。しかし、自分と向き合うことから逃げず、「今の自分にできる小さな一歩」を馬鹿にせずにコツコツと取り組ま[…]
自分も他人も、ほとんどの人は「ろくでもなく」そして「そう捨てたものでもない」。それが腑に落ちると、他人が自分の望みどおりに振る舞わなくても、「まあ、仕方がないか」と”ある程度は”受け入れやすくもなります。
勿論、相手が近い存在であればあるほど、また自分にとって「これは譲れない」事柄であればあるほど、「何であんたがそんなことをするのよ!」をやりたくなる自分もまた、消えはしません。そのせめぎ合い、即ち葛藤は死ぬまで続きます。というよりも、この葛藤がなくなれば、私たちはそこで成長を止め、坂道を転がり落ちるように退化してしまいます。
わたしには、あなたが(良い自己:他人に見てもらいたい、望ましい自分)であることがわかります。
わたしには、あなたが(悪い自己:他人に見られたくない、望まない自分)であることもわかります。
わたしには、あなたがその両方であることがわかります。
わたしには、あなたがそれよりはるかに大きな人間であることがわかります。「NLPヒーローズ・ジャーニー」ロバート・ディルツ&スティーブン・ギリガン
憎いやつが死ねばホッとする、人間は「そうしたもの」で、それでいいのだと、それがまたその人を陰影に富んだ、懐の深い大人にしていくのだと信じてやみません。