恨みの感情を癒す2つの方法・返報性の原理

 中々消せない恨みの感情

「恨んだところで仕方がない」と何度自分に言い聞かせても、中々その恨みは消せない・・・多くの人がそうした経験があるでしょう。
恨みの感情が早めに解消されれば、人生はそれだけ楽になります。

しかしこの恨みの感情は、大きいものであればあるほど、他のことで紛らわそうとしても消えません。
時には何年も、何十年も解消しないことがあります。

それは何故でしょうか・・・?
またどのようにすれば、この恨みの感情は癒されるのでしょうか・・・?

返報性の原理とは

人間の心理には「返報性の原理」があります。
「お返ししたい、お返ししないと気持ちが悪い」と反射的に感じる作用です。

試食販売などは、この返報性の原理を活用していると言われています。試食後、お店の人に愛想よく勧められると「何だか買わないと悪いような気分になってしまう」、そうした心理です。こうした経験があると、試食においそれと手を出さなくなったという人もいるでしょう。

また、ある異性に好意を向けられると、余程相手を軽蔑しているとか、生理的に受け付けないとかでない限り、何となく相手のことを好きになってしまう。これも返報性の原理です。

笑顔を向けられれば、こちらも自然と笑顔になるなど、人間関係の潤滑油にもなります。

ナンパ師はこの原理を悪用しています。詐欺師が見るからに感じが良く、親切丁寧なのも同じです。

よく自己啓発の本で「感謝しましょう。感謝が大事です」と書かれているのは、「受けた恩を『お返ししたくなる』、その行動を取りたくなるほどに、心から感謝しているか」ということです。
言葉だけで感謝していても、「受けた恩をお返ししよう」と実際に行動に移していなければ、その人は実際には大して感謝してはいません。

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ポジティブな感情でもネガティブな感情でも、この原理は作用します。
「ポジティブだからお返しして、ネガティブなものはお返ししない」などと、心、つまり潜在意識はそのような区別をつけません。

「思い知らせてやりたい!」の恨みも返報性の原理のため

ですから、理不尽なことをされて傷ついた場合、「思い知らせてやりたい!」と恨みの感情を抱くのも、この返報性の原理のためです。つまり、その人の心が正常に機能している証拠です。

返報性の原理は、人間だけでなく動物にもあります。猫の糞尿被害の防止のために猫除けをすると、却って猫に嫌がらせをされるなども返報性の原理です。即ち本能に根差すものですから、これだけを止めようとするのは不可能です。

ただし、報復の連鎖は泥沼を招くだけで、誰をも幸せにはしません。

そのため心ある人ほど、恨みの感情を抑え込んだり、罰したりしがちです。「こんな感情は持ってはいけない!危険だ!」
しかしまたそれをすると、出口を塞がれた感情の持って行き場がなくなります。

自分に向かうと身体化(倦怠感、不眠、円形脱毛症、頭痛や肩こりなど)したり、より立場の弱い人に無意識にでも八つ当たりするなど、不適切な行動化になることがあります。

感情の強さに比例して働く、返報性の原理

人が激しい恨みの感情を抱くのは、特に信じていた人に裏切られた時でしょう。肉親など近い関係ほど、情が絡むので恨みになりやすいです。

相手に対する信頼・尊敬・愛情が大きければ大きいほど、裏切られた時のショックは大きくなります。
失恋のショックから立ち直るのに時間がかかるのも、その相手を信じ、愛していればこそです。

恨みの感情を抱いた時、抑え込んだり、なかったことにするのではなく、この返報性の原理に沿って処理する必要があります。

ひとつは恨みの対象そのものを、相対化して、小さくとらえ直すことです。
もうひとつは、報復そのものを昇華することです。
昇華とは、この場合は報復など、社会的に良しとされていない事柄を、次元の高いものに引き上げて実現することです。詳しくは後述します。

出来事の重さによっては、「小さくとらえ直す」ことはできないものもあります。家族を事故などで奪われた場合など、その出来事を「小さくとらえ直す」ことはむしろ不自然でしょう。

恨みの感情の癒し方 ① 恨みの対象を相対化する

悩みの現実そのものは変わらなくても、見方を変え、自分の受け取り方が広がることによって、相対化されると氣持ちが楽になります。

同じ悩みを持つ人同士で、その悩みを分かち合う会合があちこちにあります。
それは「悩んでいたのは自分だけではなかった」と現実そのものは何も変わっていなくても、氣持ちが軽くなることを目的としています。

人が悩んでいる時、悩みの現実そのものよりも、「こんなことを悩んでいるのは私だけだろうか」という孤独感の方が辛く感じることがあります。こうした孤独感は、悩みを絶対化しがちです。そして絶対化は自分の世界地図を圧倒してしまいます。

こうした会合でなくても、「実は私も○○さんに同じようなことをされてね・・」と別の人から聞くと、「私だけじゃなかった」とそれだけでホッとするものです。

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また恨みは、相手に対する期待の裏返しでもあります。

信じていた相手に裏切られ、ショックを受けるのは(「こんな人だとは思わなかった・・・!」)、それは相手にそれだけ期待があればこそです。行きずりの人が少々無礼でも、相手に期待をしていないので、すぐに忘れてしまうのと表裏一体です。

殊に親からもらいたかった愛情を、他の大人が代わって与えてくれたとしても、それで帳消しにはなりません。それは親に対する期待が消えないからでしょう。どんな子供も「自分は良い親に愛情深く育てられた」と思いたい、そうあるはずだと願うものです。現実はそうでなかった、子供の一途な愛情を、エゴのために利用されたと氣づくと、深い恨みが生じます。

恨みの対象を相対化するとは、以下のような例が挙げられます。

  • 私の親の愛のなさは、その親からの連鎖で、彼らは加害者であると同時に被害者でもあった。
  • 相手は私だけでなく、他の人にも不誠実なことを繰り返している。腹は立つけれど、相手の人間性の問題で、私の問題ではない。
  • 世の中には「嘘をついても平気な人」「人を利用して何とも思わない人」もたくさんいる。私はこれまで、たまたま幸運にも巡り会わずにすんでいただけだった。

こうした見方を拡げることによる相対化ができると、相手は何も変わっていなくても、こちらの氣持ちが楽になってきます。
「この恨みを返してやりたい!」氣持ちが弱まってくる、返報性の原理の作用が小さくなるからです。

相手の行為や態度を道義的に許す必要はありません。自分が日常生活の中で恨みの感情に支配されないための相対化です。

またこれは人に言われるのではなく、自分で氣づくことが大事です。

多くの人が自然にやっているのはこの相対化です。当Pradoのセラピー・セッションでもこうした相対化を多く行います。

恨みの感情の癒し方② 報復そのものを昇華する

例えば家族を事故によって奪われたなど、出来事を中々相対化できないこともあります。これは「世の中そんなもの」ではすまされません。

この場合は「思い知らせてやりたい!」つまり報復したい、相手に返したい気持ちを、抑え込み消そうとするのではなく、別なものに変えていく必要があります。

ある芸能人の小学生の娘さんが、交通事故に遭って亡くなりました。
ついさっきまで元氣にしていた娘が、突然いなくなる、その悲しみやショックはいかばかりかと思います。

その芸能人の方は、やがて自分の知名度を生かして、「こんな思いをする人が少しでも減るように」と交通事故撲滅のための活動を始めました。

昇華、とはこうしたことです。

もっと日常的な例を挙げると、上司にこっぴどく叱られた、悔しい思いを嫌がらせで返すのではなく、その上司に一目置かせる存在になろう、と発奮材料にするのも昇華です。
先の親の例だと、「自分は自分の子供に連鎖させまい」とするのも昇華です。

スペインのことわざに「幸福に生きることが最高の復讐」があります。このスペインのことわざは、単なる「見返してやれ」ではありません。「あの人のせいで私はこんなに不幸なんだ」を潔しとしない生き方です。「あの人のせいで」になってしまえば、憎い相手の思う壺です。

昇華できるようになるためには、心底自分を大切にする、自尊感情を高める習慣がベースにあればこそです。「次はこうする」の反省ではなく、「ああ、やっぱり自分はダメだ」のダメ出しをして具体的な行動に移そうとしなかったり、「だって、どうせ」の責任逃ればかりしている間は、この昇華という高度な心の向き合い方はできません。

また昇華のためには、失望に耐える力を養うことも肝要です。ただしこれは、誰にとっても難しいものです。失望に耐える力が弱いと、「この失望に耐えなくて済むように、あなたが変わって」をどうしてもやりたくなってしまいます。失恋の未練が恨みになりやすいことを考えると、わかりやすいかもしれません。

「恨んでもしょうがないでしょ!」では追いつめられるだけ

この恨みの感情の向き合い方は、①と②のいずれか、もしくは両方が必要です。

実際のセラピー・セッションでは、「大きな恨みに小さな無数の恨みと、それによる無数の思い込みが絡みついている」ものなので、数多くのプロセスが必要です。そして「どれをどのタイミングで解消すればいいのか」の診立ては、クライアント様ご本人では中々わかりません。心のことは目に見えず、常に揺れ動き続けるものなので当然です。恨みの感情が中々解消しづらいのも、こうした事情があればこそでしょう。

そして、報復の連鎖はなにも良いことをもたらさない、それは誰しもがわかっています。
だからこそ、恨みの感情に対して、他人や自分に「恨んだってしょうがないでしょ!」とお説教をしがちです。

しかし、人間の心の「返報性の原理」はお説教で止まるものではありません。かえって心は追いつめられるだけです。

返報性の原理は、良きにつけ悪しきにつけ働き続けるもの。この原理自体は死ぬまでなくなりません。

この原理に沿って感情に向き合い、処理することが真の癒しとなります。

それでも恨みを抱えざるを得ない、それが人間

そしてまた、上記のような①と②の向き合い方、処理の仕方をしても、やはり恨みが残ることもあります。高齢者が配偶者に対して、昔の恨みつらみを言いつのったり、弱ってきた相手に暴力を振るったりすると時折耳にします。積年の恨みが心の奥底に残ったまま、脳の前頭連合野の働きが衰え、自制心が効かなくなるために起きてしまいます。繰り返しになりますが、配偶者や親など、情が絡む相手ほど、恨みは深くなります。

最も大切なことは、自分は聖人君子ではない、ごく普通の人間で、どんなに向き合っても残る恨みを抱えて生きざるを得ないこともある、それを承認することです。「ほれぼれとする自分でないと許してやらない、受け入れたくない」のナルシシズムがあると、それは難しくなります。

誰に対してどのように恨んでいるのかをごまかさない、そして関係のない第三者を巻き込まない、それが良心であり品位です。

本当は特定の個人への恨みの筈なのに、「世間一般への恨み」に転化すると、つまりごまかすと、「世間に自分を認めさせたい、跪かせたい」が生きる動機になります。「どうやったら世間を見下せるか。『わあ、すごいですね』と言われるか」に汲々とします。少しでも自分の評価評判が悪くなることは、わかっていても知らぬ存ぜぬで口を拭って逃げてしまいます。世間体大事とはこうしたことです。自分の恨みの感情に、真っ直ぐ向き合えなかった結果です。

「あるがままの自分」とは、「あの人への恨みをやはり消せずに持っている」その自分を受け入れ、認めることでもあるのです。

【音声版・自尊感情を高める習慣・6回コース】

1回約20分、6回コースの音声教材です。

第1回 自尊感情とは何か。何故大事か
第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
第3回 「何が嫌だったか」を自分に質問する。目的語を補う
第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
第6回 人生が変わるのは知識ではなく氣づき

第1回目は無料で提供しています。まず一週間、毎日聴き、ワークに取り組んでみて下さい。その後更に日常の中で実践してみたくなったら、6回分の音声教材(税込5500円)をご購入下さい。

🔗第1回・要約・氣づきメモ

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    生きづらい貴方へ

    自尊感情(self-esteem)とは「かけがえのなさ」。そのままの自分で、かけがえがないと思えてこそ、自分も他人も大切にできます。自尊感情を高め、人と比べない、自分にダメ出ししない、依存も支配も執着も、しない、させない、されない自分に。