対象恒常性・誠実さ、一貫性、信頼、不安の耐性の土台

「逃げるか/戦うか」反応は恐れによる本能

耐えがたい痛みを感じると人は、「そこから逃げ出そうとするか、それを攻撃し、戦おうとするか」をまずしようとします(「ああ、もういや!逃げ出したい!」「何なの、あいつむかつく!!」など)。愚痴や悪口、或いは「誰ともかかわりたくない!」もこの「逃げるか/戦うか」反応です。

この「逃げるか/戦うか」反応は、全ての動物が持つ本能です。本能ですから、なくなってしまうと私たちは生き延びていけません。津波が来たら走って逃げるのは、この本能があればこそです。愚痴や悪口も、その人の本能が死んではいない証拠でもあるのです。

しかし、この本能の反応が過剰だと、社会的動物である人間は様々な不都合を生じてしまいます。ちょっとした「嫌なこと」にいちいち逃げ回ったり、攻撃的になっていては社会に受け入れてもらえません。
勿論時には、戦うことも逃げることも必要です。私たち人間には、この本能を保ちながら、過剰に反応的にならないバランスが重要です。

セラピー・セッションでは目標設定を重要視しますが、「逃げなければ生き延びられない」「逃げないことが著しく自尊感情を下げる」場合を除いて、目標が「逃げること」に終始していては意味がありません。

虐待、DV、パワハラなどの場合は我慢せずにまず「その場から逃げる」ことが必須です。そして心身の安全が確保された後は、「二度とこのような目に遭わずにすむために、自分は何をすればよいのか、何が必要か」を時間をかけて考える作業が必要になります。

「恐れ」「不安感」が慢性的もしくは過剰な場合

明らかないじめや嫌がらせがあるわけではないのに、「恐れ」「不安感」が慢性的もしくは過剰な場合は、やはり自分自身の反応を変えていく必要があります。この場合は環境を変えても同じだからです。

慢性的な「恐れ」「不安感」がある場合、以下のような問題が起こることがあります。

  • 人の目が過剰に氣になる。
  • 相手が自分の思ったような反応を示してくれないと、腹を立てたり、逆に自分を過剰に責めたりする。
  • 相手に媚びて歓心を買おうとする。
  • 「とりあえずやってみる、試してみる」をせずに、「どうせやっても無駄」と根拠のない言い訳をして行動しない。失敗を過剰に恐れる。だれかに「正解」を教えてもらい、その通りにしておきたい。責任から逃げたい。
  • 場当たり的な嘘をついて評価を得ようとする。

こうしたことは人間関係のこじれを生みますし、依存症や衝動行為の温床にもなります。

対象恒常性ー世界に対する安心感、一貫性、誠実さの土台になるもの

ところで「不安感」や「恐れ」とは反対の、人間の基本的な「安心感」は、生後まもなくから、主には2~3歳ごろに獲得される対象恒常性が支えています。対象恒常性とは、「ある対象が目の前から消えても、その対象自体はなくなっていない」という感覚です。

生後9ヶ月くらいの赤ちゃんに「いないいないばあ」をすると喜びます。これは対象恒常性が獲得されつつある時期だからです。
「ほら、お母さんはそこにいるでしょ、隠れててもいるでしょ、ほら、いた!!」と「いないいないばあ」をするお母さんに向かって思っています。「いないいないばあ」は、その前後の時期にやっても、赤ちゃんは喜びません。

お母さんの姿が視界から見えなくなると、火がついたように泣きだす赤ちゃんは、「本当にお母さんが世界からいなくなってしまった!!」と思って泣いています。ですから、お母さんの姿がまた視界に入ると安心して泣きやみます。

成長するにつれて「お母さんが目の前にいなくなっても、お母さんの存在自体は消えてなくならない」、そして「今目の前のお母さんは怒っていても、お母さんの愛情自体はなくなってはいない」を学習していきます。

これが母親以外の対象や出来事にも応用されていきます。「先生に叱られても、自分の存在全体を否定されたわけではない」「この人は嫌な人だけれど、全ての人が嫌な人ではない」「今嫌な事が起きていても、世界全体が悪くなるわけではない」など。

対象恒常性は困難を克服するための、足元を固める地盤とも言えるでしょう。つまり打たれ強さです。

この対象恒常性の獲得が、「世界に対する無条件の信頼」「一貫性」「誠実さ」の土台となります。

大事な友人が今この場にいない時、ある人がその友人の悪口を言ってもそれに同調しない、或いはその友人のプライバシーを詮索されても「知りません」と押し通して答えない、こうした態度も「今ここにその友人はいないが、ずっと存在している」という対象恒常性があればこそです。この態度を一貫して取れる人が「信頼の厚い人」になります。
すぐにばれるような嘘を、保身や虚栄心やこびへつらいのためについたりしないのも同じことです。

対象恒常性の獲得が不十分だと、「常に足元がグラグラしている」「雨雲の向こうに青空があるとは思えない」という漠然とした不安感にさいなまれてしまいます。

この不安感が、しがみつき、依存、支配、執着、かまってほしい、かまわせてほしいに転じます。また目先の自分の都合だけを優先し、相手がその後どれほど深く傷つくかを考えられなくなるなども同じです。例えば配偶者がどれだけ傷つき、その度ごとに修羅場になっても浮氣やギャンブルをやめないなどです。

また、その場その場で相手に迎合していい人でいようとしたり、ただ「面倒くさくない方」を行き当たりばったりで選ぶのも同じです。少し長いスパンで見れば、全く不誠実なことをやっているのに、本人は氣づきません。首尾一貫性を失うとは、誠実さを失うことです。悪意を持って意地悪をしているわけではないので、本人は自覚がなく、何度でも繰り返し、結果信頼を失い、人間関係が悪化してしまいます。

対象恒常性の獲得と脳の前頭連合野の活性化

何故、人によってこの対象恒常性の獲得が不十分になるのか、はっきりしたことはわかっていません。幼少期の家庭環境や、脳の器質的障害の可能性、遺伝的要因、もしくはこれらが組み合わさったもの等と言われています。私見では、遺伝的要因が最も大きく、その上で幼少期の家庭環境が引き金になっている、と思われます。

乳幼児が対象恒常性を獲得しようとしている時(「いないいないばあ」を喜んでいる時など)、脳の前頭連合野(大脳新皮質の中でも前方、額のあたり)が活性化していることが認められています。

人間の脳は、誕生後約20~25年をかけて完成します。未成年者の喫煙、飲酒が禁じられているのは脳がまだ未完成だからです。

そして大脳新皮質といって脳の一番外側を覆い、動物の中でも人間が最も発達している部分は、後ろから前へ発達します。つまり前頭連合野の完成は最後になります。

老化により衰えるのは前から後ろです。お年寄りが涙もろくなったり、怒りっぽくなるのは、前頭連合野の働きが衰え、扁桃体という脳の「パニックボタン」を抑制しづらくなるからです。

前頭連合野は人間らしさを担う箇所です。前頭連合野を破壊されても、人間は生きていくことはできます。しかし、人間らしく生きていくことはできません。

不安を感じやすい、動揺しやすい、取り越し苦労や終わったことにもクヨクヨしやすい場合は、「受けてしまったストレスを発散させる」方法を身につけつつ、「前頭連合野を活性化させて、『脳のパニックボタン』を適切に抑制する」訓練が必要です。

前頭連合野は、目標・計画、客観性、想像力(思いやり)、粘り強さをつかさどります。

前頭連合野を活性化させる訓練とは、「人から与えられた目標ではなく、自分がどうしたいか、どうなりたいかを考える」、「起きた出来事や不安材料をテレビドラマを見るかのように客観的に見る」、「様々な角度から物事を考える」などが該当します。要は客観的な様々な角度からの思考と、「言われたから従う」の反応ではなく、「自分が選択した」責任を持つことです。

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また、前頭連合野のみならず、大脳全体を活性化させることも合わせて重要です。
軽い運動、近所の散歩などで自然に触れて五感を刺激する、規則正しい生活や、バランスのとれた食生活も、体のみならず脳を活性化し、結果「生きやすい人生」のためにも大切です。

「お天道様が見ている」「自分の心の中の神様を悲しませたくない」

上記のことは、あまりなじみのない熟語が多く、難しく感じた方もいらっしゃるかもしれません。
対象恒常性とは、平たく言えば「お天道様が見ている」「自分の心の中の神様(仏様でも、良心でも、ご先祖様でも構いません)を悲しませたくない」そうした生き方をするためのものです。
人は誰かに認められればうれしく思うものですし、好き好んで人に嫌われたい人もまたいません。しかしどんな優れた人であっても、人間である以上限界はあります。それよりも「お天道様に恥じない生き方を、誰がわかってもわからなくても、私はしている」「自分の良心に背くことは死ぬよりも辛い」と自分に対して思えることが、自尊感情豊かに生きることなのです。

【音声版・自尊感情を高める習慣・6回コース】

1回約20分、6回コースの音声教材です。

第1回 自尊感情とは何か。何故大事か
第2回 全ての感情を受け止め、否定しないことの重要性
第3回 「何が嫌だったか」を自分に質問する。目的語を補う
第4回 期待通りに成らない現実を受け入れざるを得ない時
第5回 小さな一歩を踏み出す・最低限のラインを決める
第6回 人生が変わるのは知識ではなく氣づき

第1回目は無料で提供しています。まず一週間、毎日聴き、ワークに取り組んでみて下さい。その後更に日常の中で実践してみたくなったら、6回分の音声教材(税込5500円)をご購入下さい。

🔗第1回・要約・氣づきメモ

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    生きづらい貴方へ

    自尊感情(self-esteem)とは「かけがえのなさ」。そのままの自分で、かけがえがないと思えてこそ、自分も他人も大切にできます。自尊感情を高め、人と比べない、自分にダメ出ししない、依存も支配も執着も、しない、させない、されない自分に。